20001125


映画紹介
学校IV 十五才(山田洋次監督)

少年の成長温かく描く


 川島大介は学校に行こうととすると、なぜがお腹が痛くなる十五歳の中学生だ。不登校を始めて五カ月になる。両親は大介が学校に行っていないことを一カ月間も知らなかった。
 ある日大介は「冒険の旅に出ます。心配しないでください」との置き手紙を残して家出する。大介は屋久島の樹齢七千年を超す縄文杉めざして、ヒッチハイクの旅を始めた。
 最初に乗せたもらったトラックの運転手から「なぜ学校に行かないのか」と問いつめらる。大介は「おもしろくもない学校にどうして行かなくてはいけないのか」と反論し、口論となって降ろされてしまう。
 つぎに乗せてもらったトラックには、会社が倒産して家に帰る労働者が同乗していた。彼は中学生の子供たちや家族をかかえており、これからどうしようかと途方にくれていた。運転手たちのきさくな人柄にふれながらも、世の中の厳しさを実感する。
 大阪に着いた大介は女性ドライバーの運転するトラックに乗せてもらい、宮崎まで行く。彼女には引き込もりの息子がいた。彼女の家に泊めてもらった大介は、その息子と意気投合して親友となる。彼は一枚のジグソーパズルを大介にプレゼントする。その裏には「雲よりもゆっくり、大事なものを見過ごさないように生きていく…」というメッセージが書かれていた。
 屋久島に着いた大介は縄文杉めざして歩きはじめるが、片道十時間の登山はなまやさしいものではなかった。必死にがんばった大介は縄文杉を目にするが、その荘厳(そうごん)な姿に圧倒され、心が満たされていく。
 道に迷いながら下山した大介は、一人暮らしのおじいさんの家に泊めてもらう。おじいさんは突然、病気で動けなくなるが、大介は彼を介護することを決意する…。

 映画では、十五歳の少年がたくさんの人たちに出合う中で成長していくようすが、温かく描かれている。また、少年がふりまくエネルギーが、まわりの大人たちに感動を与えていくことも印象に残る。人間はお互いにつながりあった存在ではないか、と問いかけてくる。
 展望の見えないこんとんとした社会状況の中で、少年犯罪は大きな社会問題となっている。こうした時代を強く意識してつくられた映画だが、少年の心情を中心に描くことで、子供たちの可能性を前向きにとらえるさわやかな作品となっている。
 子供たちは人と人の間で生き、社会環境に強い影響を受けながら育っていくものだ。
 現代社会は弱肉強食の資本主義社会である。この社会では人間らしさは切り捨てられ、人間は大人も子供も孤独に追い込まれていく。社会が病んでいる以上、こうした環境で育つ子供たちが戸惑うのは当然だろう。それなのに、少年法を改悪して罰則を強化すれば少年犯罪がなくなると発想する社会こそ、問題ではないのか。そんなことを考えさせられた。
 なお、この映画は松竹大船撮影所(今年六月に閉鎖)の最後の作品となった。屋久島の家屋などのセットはみごとである。スタッフの皆さんが最後の作品に込めた、意気込みが伝わる。「大船調」といわれる細やかなセットも、映画の見どころといえよう。(U)
松竹系映画館で上映中


Copyright(C) The Workers' Press 1996-2000