20001115


情報化で知識欲は高い
少しの「真実」で見方が変わる

若者は世の中に無関心か

大学生 市川 信昌


 若いことはすばらしい、とよく人は言うものだが、若いというだけで大人からいろいろ説教じみた話を聞かされてしまうので大変な身分でもある。
 最近の若者は、政治に関心を示さないという話はよく聞かされる。たしかに興味があるようにも見えないが、世の中について何も知らないというわけでもない。案外、表面的な世の中の動きは知識をもっていたりする。
 新聞も一応見る。なぜかといえば就職マニュアル本を読めば「就職試験のために新聞の見出しくらいは目を通しておきましょう」と書かれているからである。このごろの就職難でみんな危機感をもっているから、いきおい新聞くらい読まねば、という雰囲気にもなる。
 だったら、就職活動前の学生とかは新聞読んでないんじゃないかと思う人もいるだろう。確かに新聞は読んでいないがIT(情報技術)が何を意味するぐらいは知っている。不良債権や株価の問題なども一応知識をもっていて、ベンチャー企業の動向だって多少知っていたりする。

自民党と民主党の違いは

 「ねえ、そのうち消費税って値上げするんだってね」「ええーっ、やだよねえ」などという会話もされることがあるが、しかしそのくせに「どちらかといえば民主党がいい」などと言ったりする。 若者の知識はあくまで断片的で、なぜ民主党をいいと思うのかというのも、あくまで雰囲気でそう思っているだけである。
 しかし、新しいものに共感しやすい若者が「どちらかといえば民主党」というのもわかる気がする。確かにITとIC(集積回路)を間違えるなどという、いかにも家では娘に粗大ゴミ呼ばわりされている悲しい中年の典型、といった感じの森と、高級スーツに身を包み、休日は豪華な別荘でくつろいでいる鳩山とでは勝負にならない。
 たとえば、もし鳩山が父親だったら、高校生の娘も「私もケータイ持ちたいんだけど」、という会話も切り出しやすいが、森では「ケータイ、何だそれは?」と聞き返されかねない。偏見といえば偏見だが、若者の目から見れば、自民党と民主党の違いとはそういうふうに映っている。
 
テレビも大事な情報源

 新聞を読まない若者が、どこで知識を手に入れてくるのかと思うかもしれないが、そこは情報化社会なのである。 朝の民放はワイドショーとニュースが合体したような番組をやってるし、深夜番組でも一週間の世の中の動きをダイジェストで流したりする。あげくには、どう見ても政治に縁がなさそうなティーンエージャー向けファッション雑誌で、サミットの話題がマメ知識として紹介されたりする。
 もちろん、若者の需要があるからの話である。最近の若者は、すぐキレるとかガングロだとかさんざんバカにされ、テレビのクイズ番組では日本の総理大臣は? と聞かれ、答えられない街角の学生の姿がおもしろおかしく伝えられている。
 そのおかげかどうか、最近の若者の知識欲は高い。ITの意味くらい知っておかないと大人にも友達にもバカにされる。となれば簡単でも知識をもっていなければならない、となる。しかしその知識も表面的以上にはなりようがない。
 
NGOに関心高まる

 とはいえ、ボランティアやNGO(非政府組織)に対する学生の興味は年々高まってきている。学生がみな世の中の出来事に関心がない、などということはない。
 しかし、彼らの目は国内の政治にはなかなか向かないのが現状だ。彼らを先導する大人たちがもともと学生闘争に敗れて政治に失望したからだという人もいる。
 彼らの目は高齢者や障害者、女性、第三世界とさまざまな方向に向いているが、国内の政治には目を背ける。NGOはもともとそういうもの、とも思えない。欧米のNGOは紳士的に国家と交渉を進める一方で、資本主義の象徴だとマクドナルドを襲撃したりもする。
 暴動がいいか悪いかはともかく、彼らは国内の政治に失望していないし、本当の敵が誰かも心得ている。彼らは表向きには「自分たちは資本主義や国家の敵ではない」と主張するが、それでは成果が上がらないので、結局シアトルでクーデター前夜のようなデモを行った。日本のNGOにはそこまで洗練された戦略はない。
 
僕にもできることがある

 誰しもが政治に目を背けたくなる時代に、若者に政治に目を向けろというのも難しいことだが、世の中に積極的にかかわっていこうという若者は決して少なくはない。要は大人の側の世界観の教え方しだいなのだろう。別に世界情勢について論じろ、とは言わないが、せめて消費税を値上げしたがっているのは誰なのかくらい、教えてあげたほうがいいと思う。
 もちろん若者も変わらなければいけない。米国大統領選挙を民主主義の象徴としてメディアにタレ流すようなバカげたイデオロギー教育はさっさと卒業したほうがいい。
 私は沖縄の基地問題にかかわっているのだが、その昔、米国人の元ヒッピーのオヤジと文通したときに、「気持ちはわかるが、たぶん君たちには何もできないだろう」と言われたことがある。
 私は、「日本には基地問題についてまったく知らない人がたくさんいる。確かに私たちにできることは少ないが、私たちには『知らせる』という力がある」と説明した。向こうはその意見にいたく感銘したかどうか知らないが、「その通りだ、やればできる!」みたいなことを言ってくれた。ちなみに彼も米国の国内政治に完全に失望している人間の一人だった。
 若者が政治に興味を持たないのは「知らない」ということと大きく関係している。大統領選挙では、華やかな党大会のようすがテレビで報道されるが、その外では大規模な抗議デモが繰り広げられていることなど、ほとんどの人は知る由もない(テレビで流れないのだから)。
 そんな事実をちょっと入れ知恵するだけでも世の中に対する見方はだいぶ変わるだろう。こうしたことが、力のない私にもできる、ささやかながらあなどれない仕事だ。  


Copyright(C) The Workers' Press 1996-2000