20001025


コミック紹介 山本おさむ作

わが指のオーケストラ


 この漫画は、生涯をろう教育に捧げた高橋潔氏の生涯を描いた作品だ。
 一九一三年、貧しい生活のために音楽の道を断念した潔は、やむなく大阪市立盲あ学校の教師となる。ここで耳の不自由な子供たちと手話に出会う。潔は手話を通して、彼らの心に音楽を鳴らす道を進み始める。
 当時、障害者は家庭に閉じ込められ、教育を受けることもなく社会の片隅で生きていた。この子らが人間らしく生きていけるように学校、家庭、地域、社会を変えていくため、潔は奮闘する。
 ろう教育は手探りの時代であった。一九二八年には手話学級は全面廃止となり、ろうあ学校のほとんどが口話法(読唇し発声する方法)を採用する。しかし、潔は「ろうあ者が手話をすることが認められる世界、すべての人びとが手話を理解する世界を理想とする」との信念から、「口話に適する者には口話法、適さない者には手話法で、一人の落ちこぼれもない適正教育を」と訴え、全国で唯一、手話教育を守り続けた……。
  *  *  * 
 時代背景は大正初期から昭和中期だ。障害者を排除してきた社会と、その中で虐げられてきた人びとの姿が、強烈に描き出される。
 とりわけ一九一八年の米騒動の描写は、ていねいで感動的だ。「米騒動の先頭に立った多くは社会的差別を受けていた人たちだった。なぜ世の中に差別があるのか」と問いかけている。また、関東大震災時に朝鮮人が虐殺されたが、「五十円五十銭」が言えないろうあ者が多数虐殺されたことも描かれている。
 そして、潔が亡くなった後も、ろうあ者自身が団結して立ち上がり、「手話の否定は聴覚障害者の人間性の否定に結びつく」として、手話を守る運動をつくり出していく。
 山本おさむ氏は、「遥かなる甲子園」や「どんぐりの家」など、障害者をテーマにした作品を発表している。ろう教育の歴史を知ると同時に、「人間らしく生きる」とは何かを考えさせてくれる作品である。(U) 


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