20001015


映画紹介
(監督・阪本順治)

強烈な生活臭放つ作品
 底辺の人びと温かく描く


 吉村正子(藤山直美)は、実家のクリーニング店でかけはぎの仕事を手伝っている。人づきあいが嫌いで喜怒哀楽の激しい正子は、ひきこもりの生活を送っていた。ある日、唯一正子を理解してくれる働き者の母(渡辺美佐子)が亡くなった。葬儀の夜、口論した妹(牧瀬里穂)を絞め殺してしまう。
 正子は指名手配されるが、学生時代の顔写真しかなかったため、したたかに逃げのびていく。
 正子は神戸で大震災にあい、酔っぱらい男(中村勘九郎)にレイプされる。さまよったあげくたどり着いたラブホテルで働くことになるが、ラブホテルの社長(岸部一徳)は、経営がうまくいかず首つり自殺してしまう。
 また、正子は逃げる。飛び乗った列車の中で、リストラされて故郷の別府に帰るサラリーマン(佐藤浩市)に出会った。彼は自分を首にした会社を脅し、リストラの償いをさせようとしていた。彼に心をひかれた正子は、同じ別府で電車を降りる。
 正子はバーでホステスとして働き始める。ママの律子(大楠道代)は正子を頼りにし、正子も水を得た魚のように快活に働いた。そんな時、律子の弟(豊川悦司)は暴力団から足を洗おうとし、メッタ刺しで殺されてしまう。正子はすぐに逃げるが、客と写った顔写真が全国に……。
 この映画は、なんといっても藤山直美の迫力ある演技が光っている。行く先々で新しい自分を発見し、違った顔を見せる正子がたくましい。人間だれしもいろんな顔=可能性があるということを見せつけてくれる。
 殺人、ひきこもり、レイプ、リストラ、自死、暴力団…現代社会が解決できない問題がいたるところにちりばめられている。正子は、殺した妹は必ず生まれ変わると信じることで自分を免罪しようとする。でも、自分自身は「生まれ変わるのがいやだから死にたくない」と、今を精いっぱい生きようとする。
 登場人物はみんな善良でやさしい人間ばかりだ。社会の底辺で懸命に生きる人びとを見つめる目が温かい。人びとのたくましさをユーモラスに描く監督の視点に、共感を覚える。
 スチームアイロンの臭い、おう吐物の臭い、血の臭い、ホコリの臭い、路地の臭い、海の臭い……。無機質なスクリーンから強烈な生活の臭いが漂ってくる作品だ。(U)
 
東京・テアトル新宿など全国で上映中
 


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