20000905


アジアに生きる若者たち

マレーシアへ単身雄飛した女性(9)

海援隊(海外展開企業等を支援するネットワーク組織隊)
代表幹事 牟田口 雄彦


日本女性の広島風
お好み焼き屋繁盛記

 大門清美さん、普通のOLであった大門さんが、単身でマレーシアに乗り込み、お好み焼き屋を開業したのは、一九九七年三月であった。
 なぜアジアでお好み焼き屋? 利口な日本人は、リンギットと円の価値を比較し、マレーシアで働くことは現段階で得策ではないと判断してしまう。しかし、彼女の考えは違っていた。アジアで働きたい、平成の不況の出口の見えない暗い日本から見れば、何か日本にない明るさ、おおらかさ、大きさを感じるアジアにかけてみたい。この単純な気持ちが彼女を突き動かした。
 ふらっと出掛けたところが、クアラルンプール。そして、始めたのが、自分でできる範囲の広島風お好み焼きであった。この広島風というのがポイント。具と粉がごちゃごちゃで中身のはっきりしない関西風より、食材が豊かなこの国では、様々な具をトッピングして積層状にする広島風がうけるのだ。
 メニューは、「肉玉(肉と玉子)十リンギッド(一万円=三百 リンギッド) 、肉玉、イカ、エビ、十三リンギッド、肉玉、餅、イカ天、十七リンギッド、肉玉、イカ、エビ、モチ、イカ天、十九リンギッド」他に、焼きそば、うどん、イカなどを希望に応じて入れている。
 商売のコツは、お好み焼きのベースとなる粉を吟味して仕入れる。そして、そのうまい本体の上に、オプションのトッピングのメニューを積み上げる。そうやって基本的な味を大切にした上に値段の幅をもたせる。いわば相撲の型である料理は日本風を守り、商売の土俵はアジア風に広げる工夫が大切だ。マレーシアでのイスラム教や為替変動への対応は、大変難しい。これを克服できれば、世界のどこでも通用すると彼女は確信している。
 開店時間は、AM十一時半〜PM十時 、特に夕方になると人が並び、順番待ちの列ができる。一時間待ちは当たり前の店になっている。お客の三割は日系、七割が現地の中国系である。
 ちなみにマレー系は、宗教上の食物規定からお客はゼロである。インド系も少数(日本人は、この宗教上の戒律である食物規定に理解がなく、日本国内では、刑務所の食事が収容されている回教徒に問題となり、断食をする事件も起きている)。
 大門清美さんが誕生させたマレーシアの広島風お好み焼き屋「大門」は、大門さんの強い「志」と気楽な「行動力」そして、片言の英語で現地の人(お客や従業員、取引先)の心をとらえる「感性」の豊かさもあり、既に二・三号店が開店している。
 彼女の夢は、マレーシアからアセアン諸国、そして世界へのチェーン展開である。この大きな計画も「彼女ならできる」と人に思わせ、そして、応援したくなるナイスヤングレディであった。 


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