20000905


映画紹介 監督 松江 哲明
「あんにょんキムチ」

在日3世の悩み 明るく描く


 二十二歳の青年が友人たちに「僕は日本人じゃない。韓国人なんだ」と、飲み屋の前で告白するところから、映画は始まる。この青年が、この映画の主人公であり監督である松江哲明さんだ。韓国人であることに突然目覚めた彼が、日本人でもない、韓国人でもない、在日三世の自分を見つめていく。
 彼がこだわっているのは、死んだ祖父の墓が日本名「松江勇吉」となっていることだ。祖母や祖父の友人、叔母や両親をインタビューする中で、祖父の生きざまが浮かび上がってくる。
 祖父は日本人として生きようとして、町内会役員なども積極的に引き受けていた。しかし、四人の娘には日本人との結婚を許さなかった。そして、友人と話すときは韓国語しか使わなかった人だった。
 哲明は祖父母の生まれた韓国を訪問した。韓国語をしゃべれない哲明には通訳が必要だ。祖父の生まれた家を訪ね、親戚から「松江」の名の由来を聞いた。日本植民地時代の創氏改名で、朝鮮名が使えなくなったこと。新しい名前は一族の出身地からとったことを知る。祖父の「松江」という名前に対するこだわりは故郷への強い思いと、差別的な日本社会から家族を守ろうとする深い愛情にあったのだ。
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 映画では、日常生活の中にある笑いと涙が、自然体で軽快に映し出される。日本に帰化することを決断した両親の思いも、ていねいに描かれている。
 「あんにょん」とは「こんにちは」とか「さようなら」という意味だ。キムチが嫌いな松江さんと韓国との出会いは、今始まったばかりだ。
 日本の植民地支配をみつめながらも、なぜか重苦しさがない。悩み戸惑いながらも現実を肯定して生きようとする、青年の前向きの明るさと力強さが印象に残る作品だ。
           (U)

東京・BOX東中野で九月中旬まで上映(一日二回)
問い合わせ先 ・03―5389―6780
全国各地で上映予定 


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