20000615


地域で学習会を開催して

介護保険導入から2カ月半

介護は金もうけの道具か

福祉労働者 大森 孝弘


 テレビや新聞で「介護保険」という文字を見ない日はないほど、国民の目と耳をとらえていたあの介護保険制度も、最近ではたまにといっていいくらいしか、見聞きしなくなりました。内容がよく分からないまま私たちの脳裏に焼き付けられてしまい、あきらめ半分で慣らされてきたようです。私も四月から社会保険料に介護保険料を上乗せされた金額を、うむを言わせず払わされている一人です。
 政府は最初から介護保険の問題点は「走りながら考える」という方針で、強引にスタートしてしまいました。二カ月過ぎた今、やはり問題が噴出しているという話を、たくさん耳にします。
 そこで私たちは、介護保険の状況をじっくり見つめ考えてみる必要があるという思いから、地域で介護保険についての学習会を取り組みました。当日は雨模様で出足はまあまあでしたが、参加者の中には、「介護については経済的にも精神的にも切実に困っています。街頭のポスターを見て来ました」という人もいました。
 学習会での問題提起は、A市の施設理事長と職員の方にお願いしました。医療・福祉の現場で実際に見た利用者の姿、そこで働く介護職員に生じた問題点などについて話していただき、熱のこもった二時間でした。
 私もつい最近まで、B施設で寝たきり老人の介護の仕事に携わっていましたから、何かと関心も強く、介護保険制度について納得できない気持ちです。介護保険料の問題や、利用者の負担金、受けるサービスの問題などがよく聞く話でしたが、もう一方で介護する職員やホームヘルパー、ケアマネージャーなどを困らせる問題点が現実に数え切れないほど生じていることを聞き、いたたまれない気持ちになりました。
 施設職員にしろヘルパーにしろ、人相手の仕事です。常に介護される側に立った気持ちで介護することが最も大切なことだと頭では分かっていても、やはり限度があります。介護保険制度ができたゆえに生じてくる問題で、人と人の信頼関係まで失う羽目になってはいけないと思います。
 理事長の話を聞いていると、いろんな面で気配りができているように感じました。利用者のことはもちろん、そこで働く職員についても「自分は常に民主的に病院や施設を運営し育てている」と言われましたが、新人職員についての初歩的教育や常に職員と顔を合わせ、意見を聞き、一人ひとりを大事に扱っていることがよく分かりました。
 
入所者が激減したB施設

 それに比べて、私が勤めていたB施設の理事長は「何を考えているか」と言いたくなるようなひどさです。介護保険がはじまる直前になって、施設に長く勤め入所者からも親しまれていた臨時職員を何人も情け容赦なく首を切ったり、急に採用試験を行って幾人も採用するなど、目まぐるしく職員の変動を行いました。また、最近も臨時職員の数人が首を切られようとしていたそうです。
 これでは、入所者が不安になるのも当然です。こんなことの繰り返しでは、職員の質の向上はおろか、施設のサービス低下につながり、世間の評判も悪くなるのは明らかです。事実、介護保険が導入されてからはこの施設への入所者は激減し、定員に満たない状態です。同じ市内にある同様の施設では、入所待ちの人が数十人もいると聞いています。当然の結果だと思います。
 介護保険を金もうけの道具としか考えない理事長とそれを黙って実行する管理職(施設長)がいる限り、この施設はまったく発展性のある施設には程遠い存在で、入所者とそこで働く職員もとても不安だろうと思います。
 これから先、前述のA市の施設理事長の下で働く人たちと私が働いていた施設の人たちとでは、働く意欲やサービスの質にも大きな差が生まれ、介護保険制度によって生じる諸問題を乗り切っていく方法にも大きな違いがでるのではないでしょうか。
 同じ理事長でもかたや施設発展のために人材育成にも日夜努力している人と、かたや自分の利益のためには施設の中身、利用者はどうなっても知らんふりの人では、介護保険制度(福祉分野における規制緩和、弱肉強食の制度)の中、どちらが生き残れるか一目瞭然(りょうぜん)ではないでしょうか。 


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