20000605


自死遺児が1年で1万2千人

学生たちが思いを文集に

心の叫びを聞いてください


 政府や企業は庶民に生活の犠牲を押しつけている。この深刻な不況を乗り切るために、労働者は過酷なリストラ、失業、借金、生活苦の中で、精神的にも追いつめられている。こうした中で、自死(自殺)の急増は大きな問題となっている。働き盛りの中高年の自死は、配偶者や遺された子供たちに大きな悲しみをもたらす。親が自死した学生たちが、心の叫びを文集「自殺って言えない」にまとめた。


社会を変える第一歩に

 この文集は、あしなが基金を通じて知り合った学生十一人が、突然親を自死で失った思いをつづったものだ。この文集の題名「自殺っていえない」が、彼らの心境を的確に語っている。父親が首をつっている姿を目にしたショック。どうして自分たちに止めることができなかったのかという自責の念。親の死の悲しさ、苦しさ。人に「自殺」だと言えないつらさが切々とつづられている。どれも胸を打たれる内容だ。文集には夫を自死でなくした五人の妻の手記も掲載されている。
 彼らは「親の死と向き合い、自死という問題を考える中で、自死の問題の背景にある社会的な問題を考えるようにもなってきました」と述べている。「この文集がこれまでの自死に対する考え方を変え、社会を変える第一歩になったらうれしいと思います。私たちの心の叫びを読んでください」と語りかけている。
 学生の一人は編集後記で「思い悩む人を支え合い、自死を選ぶ人がいなくなる社会。それが一番の願い。一歩でも近づきたい」と書いている。彼らの思いにこたえられる社会をめざしていくことが、いま政治に問われている。

働き盛りの自死激増

 九八年の全自死者数は三万二千人を超えた。九九年も自死者の増加傾向は続いている。とりわけ二十五歳から五十九歳の働き盛りの男性の自死は急増し、九八年は前年比四一・六%増の一万四千二百三十六人にのぼった。これは全自死者の四四%を占める。
 またその原因を調べると、「経済生活問題」が前年比七二・五%増の四千三百四十三人、勤務問題が四八・九%増の千四百八十五人となっている。賃金が上がらず借金が増える。会社では人とも思わぬリストラ、失業や配転によるストレスによるうつ病や過労。こうした社会状況下で痛めつけられる、親たちの現実が見えてくる。
 あしなが育英会が昨年末に発表した推計によれば、九八年の自死遺児数は約一万二千人で、前年比で三一%の増加である。一日平均三十二人もの子供たちが自死で親を亡くしていることになる。これは交通遺児の四倍にものぼる。この推計は十七歳までの遺児数で、四十代後半から五十代の自死者がとりわけ増えているだけに、十八歳以上の遺児も含めるとさらに多くなると思われる。
 自死を選ばざるを得なかった人びとの苦悩に思いをはせ、自死に追い込んだ社会と闘い、その姿を変えていかなければならない。そうしなければ、弱肉強食社会はさらに生き延びようとして、いっそう多くの尊い命を飲み込んでいくにちがいない。


「自殺って言えない」

 この文集には3つの思いを込めました。自死という道を選び、死んでいった親をもつ者として、今まさに自死という道を選ぼうとしている人に、残される家族の気持ちを知ってもらい、踏みとどまってほしい、「お父さん、お母さん、死なないで」という思い。
 私たちが抱えてきた悩みのように、だれにも言うことができずに世界中で自分一人しかいない、だれも自分のことを分かってくれないと思ってしまっている自死遺児に「一人じゃない」ことを伝えたいという思い。
 そして社会へ、すべての人たちに親の自死というつらい体験をして、悩み、苦しんでいる子供たちがいることを知ってもらいたい。彼らが倒れてしまわないように「そっと肩を貸してほしい」という思いです。
 2月中旬、あしなが育英会のつどいが縁で知り合った自死遺児の学生11人が集まり、お互いの経験を語り合いました。体験を語ることは痛みをともないましたが、語り合うなかで、自分たちの声を何かの形で生かしたいという思いが芽生え、「文集を作ろう」という声があがりました。
 しかし、すぐに大きな壁にぶちあたりました。……書こう、書かなくてはならないという気持ちと、書けない、書きたくないという気持ちのぶつかりあい、葛藤(かっとう)がありました。
 私たち自死遺児の学生のみんなに「自責の念」、自分があの時こうしていれば親は死ななかったのではないかという思いが強烈にありました。それまで親は「勝手に死んだんだ」と思っていました。しかし、遺児の仲間との語り合いや、つどい・後輩遺児のための街頭募金活動などを通して、決してそうではないと思えるようになり、親の死が認められるようになりました。そして社会的にも親の死を認めてほしい。私たちこそがそのことを伝えなくては、という思いが私たちを突き動かし、この文集になりました。
 親の死と向き合い、自死という問題を考えるなかで、自死の問題の背景にある社会的な問題を考えるようにもなってきました。かけがえのない親や伴侶を自死で亡くした子供の声、お母さんの声を聞いてください。私たちの心を感じてください。そして自死という、もはや他人事ではない問題と向き合ってください、考えてください。
 この文集がこれまでの自死に対する考え方を変え、社会を変える第一歩になったらうれしいと思います。私たちの心の叫びを読んでください。


あしなが育英会
 自死、病気、災害、震災、犯罪被害など交通事故以外で親を亡くしたり、重度後遺症で働けない家庭の子供を物心両面で支えている。十二年間に一万人の遺児に奨学金を貸し出し、心のケアのためのつどいなどを実施している。
【文集の問い合わせ先】
電話03―3221―0888
文集は無料で配布 


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