20000525


「三国人」「神の国」発言へ不信

歴史を正しく見つめよう

留学生「日本は怖いところ」

日本語教師 遠藤 萌


 「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。もし大きな災害が起きたときは大きな騒擾(そうじょう)事件が想定される」。石原都知事の発言である。
 この新聞報道を目にしたとき、あまりの驚きに言葉も出なかった。私は関東大震災の時に日本軍と警察のデマによって六千人を超える朝鮮人が殺されたことを思い出したのだ。そして同時に、留学生たちの身の危険を漠然と感じた。
 これは決して大げさに言っているのではない。石原氏は二月の都議会でも同じような三国人発言をして訂正したことがある確信犯であり、史実に基づいた歴史認識がないのである。
 次の日の授業の時「先生、日本人は僕たち外国人が何か悪いことをやると思っているのですか」「日本は怖いところですね」と学生たちが口々に言い出した。私は返す言葉がなかった。石原氏辞任を求める動きがあることを話すのが精いっぱいだった。
 彼らは不法入国者ではない。しかし不法であるかどうかに関係なく、外国人が何か事件を起こすたびに、彼らは自分を見る周囲の目が冷たくなることを身をもって知っている。「不法入国者」という言葉が入っているかどうかが問題でもなければ、まして「三国人」と言う言葉が辞書にどう書かれているかなどが問題ではないのだ。問題は、日本がアジアへ侵略をしたり朝鮮を植民地としたことへの認識がなく、むしろ再びその道へ進もうとしていることである。
 彼らは受験に向けてがんばり始めている。授業料に生活費、そしてできれば大学の入学金の足しになればとバイトに精を出し、なおかつ日本語能力試験や私費留学生統一試験の準備のために必死になって勉強をしている。留学という言葉はとてもきれいな響きだが、その実態は大変なのである。
 そんな彼らは、母国で日本が侵略していた時代や植民地として支配されていた時代のことを学んでいる。だから日本の先端技術や学問にあこがれを抱いて来日してからも、心の中に日本や日本人に強い抵抗を感じている。
 そして、日々つきあう日本語教師たちや道に迷っているときにわざわざ目的地までつきあってくれたおばあさん、電車の中に忘れ物をしたときに親身になって捜してくれた駅員さんたちに出会いながら、少しずつ日本の社会にとけ込んでいくのである。
 そんな彼らに、今回の石原知事の発言は日本と日本人への不信感をもたせた。そして私は、石原氏が分かっていながら発言を繰り返すこと、彼の発言を受け入れる土壌があるということに恐怖さえ感じた。
 そうした中での森首相の「神の国」発言であった。ある学生は森首相の発言について「日本にこのような発言をする政治家がいる以上、アジアの国々との友好関係は難しいのではないのでしょうか」と言った。
 日本はアジアの国々と共存共栄し、平和な国をめざすべきである。誤った歴史認識を許してはならない。歴史を正しく見つめるところから、日本の未来も見えてくるだろう。そんな立場に立った上でのリーダーシップを、彼らは日本に期待している。 


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