20000515


映画紹介

ボクの、おじさん (東 陽一監督)

満たされぬ心の風景描く


 川口浩二(筒井道隆)は東京で働く二十九歳のサラリーマン。得意先の井沢部長にいじめられて、気分の晴れない毎日だ。
 ある日、熊本県八代に住む兄から「親父が亡くなったからすぐ帰るように」と、電話があった。兄は「拓也(細山田隆人)が強盗して警察に捕まった」とも告げた。拓也は十四歳になる兄の息子で、仮面をかぶって郵便局に強盗に入り、あっけなく逮捕されたというのだ。
 拓也の両親は離婚し、拓也は父親と二人暮らしをしている。葬式を終えた浩二は拓也と話をしようとするが、拓也は父親にもおじさんの浩二にも心を開こうとしない。バタフライナイフをいじりながら「大人はみんな仮面をかぶっているじゃないか」とつぶやく。
 東京に帰った浩二は、井沢部長の横柄な態度に怒りを抑えることができず、拓也と同じように仮面をかぶり、待ち伏せして仕返ししてしまう。
 父の納骨のために八代に帰った浩二は、久々にゆっくりとした気分となることができた。拓也にオートバイを教えたり、自分の少年時代の記憶を振り返っていく。拓也はしだいに浩二に心を開いていく。拓也は早朝、再び仮面をかぶって習いたてのオートバイに乗って走りだした……。
   *    *
 不況が続く中で、日本をおおういらだちと不安。弱肉強食の資本主義社会は物欲をあおり、人間関係はすさんだものとなっている。殺人、誘拐、放火、汚職、詐欺、いじめ、自殺……暗いニュースが後をたたない。社会や職場のストレスで大人たちも窒息寸前、キレる寸前だ。
 「人と人の間」が途切れた社会に囲まれて、子供たちが健やかに育っていけだろうか。それでも子供たちは自分の存在をアピールしながら、必死に生きている。
 東陽一監督は「決して楽観的とはいえない状況の中で傷つきながらも、なんとかそれをかいくぐって生き抜こうとする繊細な魂を描こうとした」と作品の意図を語っている。
 十四歳の少年犯罪、両親の離婚、仕事のトラブルなど、テーマは現実社会を反映したものだ。満たされない現代人の心の風景を、球磨川や田舎の風景と重ねて、しみじみと表現した作品だ。
 暗い社会におぼれて、流されないようにしよう。仮面をとった自分自身と向き合い、人と人が力を合わせる素晴らしさを、声を大にして語っていかなくてはならない。私たちはそういう時代に生きている。 (U)

シグロ作品。東京・銀座シネパトス、BOX東中野で上映中。全国で公開予定   
 


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