沖縄の青い海、赤いブーゲンビリア、にぎやかで明るい歌と踊り、そして切ない恋がこの映画のモチーフとなっている。
ある日、沖縄の粟国(あぐに)島に、都会の生活に疲れた奈々子(西田尚美)が帰ってくる。
奈々子を港まで出迎えにきたのが、祖父母のナビィ(平良とみ)とおじぃ(登川誠仁)だ。二人は島で牛を飼って暮らしている。
そんな二人の生活に突然大きな嵐がおとずれる。六十年前、みこのお告げで泣く泣く別れさせられた恋人サンラーが、ナビィに会うためにブラジルから帰ってきたのだ。
ナビィもサンラーのことを忘れていなかった。彼の家の墓を守りながら、彼が迎えにきてくれる日を待っていたのだ。サンラーが帰ってきたことで、島は大騒動となる。ただ、おじぃだけはこれから起こることを見通すように、サンシンを弾きながら、奈々子に六十年前のできごとを話して聞かせた。
嵐がおさまった日の朝、ナビィは心に決めたことを実行に移した。そしてその時奈々子は……。
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一つの映画を見ても、みんなが同じ印象をもつことはないだろう。それは見る人が自分の感情や問題意識を重ねながら、映画を解釈するからだと思う。私が沖縄の映画を見るとき、どうしても沖縄戦の悲劇から逃れることができない。この映画にはそんな描写は一つもないが、ナビィが青春を送った時代に思いをはせてしまう。
ナビィとサンラーの恋が引き裂かれた時代は、第二次世界大戦のさなかだ。戦争の暴力の中で、恋人と死別した若者は数知れない。無数のナビィとサンラーの姿が浮かび上がってくる。
この映画では、六十年たっても二人の思いが変わらなかったことを、明るく描いている。人の心に深く刻まれた思いはいかに時間が流れても忘れることができないとすれば、悲しみもまたしかりだろう。この映画はそう語っているようにも思える。
ナビィを演じる平良とみや登川誠仁が、とてもいい顔をしているのが印象に残った。南国独特の深いシワが、年を重ねるのもいいものだと思わせてくれる。
この映画全体が、ミュージカルのように歌であふれている。しかも、琉球民謡、オペラ、ケルト民謡など、世界の音楽がつぎつぎと登場する。この多様なとりあわせが違和感を感じさせず調和してしまうのは、沖縄の開放的な大らかさのおかげだろうか。
おじぃ役の登川誠仁はサンシン早弾きの名手。琉球民謡協会の超ベテラン嘉手苅林昌、大城美佐子、山里勇吉の熱唱など、沖縄音楽を思う存分楽しめる映画でもある。(U)
テアトル系劇場で上映中
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