20000415


自動車工場日記

低額回答に怒り心頭!

青山 元


 自動車産業でもリストラ風が吹き荒れ、大手でも工場閉鎖や人員整理が具体的な日程にのぼり、労働者は雇用不安、生活不安にさらされている。そうした中での春闘は予想以上に厳しく、とくに職能給導入による賃金体系の改悪は、中高年の賃金をカットし、全体の賃金水準をも抑え込み、さらに労働者同士を争わせて職場の人間関係を破壊しようとしている。
 ここ、○○自動車でも春闘の回答が会社から出され、組合執行部の妥結提案に対する職場討議が始まり出した。ところが、わが職場の職場委員であるK班長は、一向に職場会を開こうとしない。たまりかねて朝礼の時にみんなの前で問いただすと「青山さんがやりたい言っていますので、今日の昼休みにやります」ときた。ムカッときて「お前! やる気があるのか」と言ってにらみつけると、ヘラヘラしながらラインに入ってしまった。
 さて職場会ではK班長がいきなり「執行部の妥結提案に反対の人は手を挙げてください」と言うので、「おい、おい、まず妥結提案の説明をしろよ、その上で皆で議論してから採決だぞ」と指摘すると今度は、資料の棒読みを始めた。改めて聞くとあまりにひどい内容に怒りで体が震えてきそうだ。
 「やる気の出る賃金」と労働組合が導入を認めた職能給の導入により労働者間の賃金格差拡大が公然と認められ、年齢給を調整するという名目で中高年の賃金がカットされ、一部のエリートはより厚くなっている。わずかな賃上げも、賃上げと連動してアップする税金や社会保険で目減りし、しかも四月からの介護保険料徴収で実質賃下げだ。
 一通り、資料を読みおえるとK班長はまた「執行部の妥結提案に反対の人は手を挙げてください」と言いだしたので、それを遮って「おいみんな! この中で執行部提案の平均額に達している者はいるかい?」と仲間たちに問うと、皆が組合機関紙の計算式に沿って計算しだした。ところが、誰も平均以上にはならないという。組長までもが「俺は年齢給で三千円減らされるんで、平均以下だ!」と怒っている。ここでは「エリート」とされるT班長でさえ平均に達しないのだ。
 「職場委員、一体誰が平均以上をもらっているんだ? 説明しろよ」と問いただすと、Kは組合役員用のトラの巻きをめくりだしたが、その説明はないようで焦っている。それでも「もう時間がありませんので採決をとります。執行部の提案に反対の人は手を挙げてください」とやりだす。「俺は大反対だ!」と言って手を挙げると組長までもが手を挙げだした。
 するとKは「反対の人は、なぜ反対かを紙に書いて出してください。出さないと反対と認めません」とぬかす。「それじゃあ、賛成のやつらは書かなくてもいいのか?」と聞くと、執行部の意見と同じなので必要ないと言うのだ。あきれ返ってしまう。
 この組合は、役員のすべてが職制または職制昇格予定者で占められており、労務管理の軸ともなっていた。しかし、末端職制に自殺が相つぎ、社内に「相談室」が設けられるなど労働強化が強いられている。賃金抑制による生活苦は職制を含め、労働者全体の意識の変化を生もうとしている。自動車工場の中からもそうした兆しを感じる今日この頃である。 


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