20000325


映画紹介三池闘争で殉難
破線のマリス(監督 井坂 聡)

テレビを疑いなさい


 破線=テレビ画面を構成するとぎれた線。
 マリス=悪意、敵意。

 遠藤瑶子(黒木瞳)は三十四歳の敏腕テレビ編集者。管理された放送界に挑むような、感性と想像力でつくる「事件検証」番組は、高視聴率をたたき出していた。
 ある日、瑶子は郵政省職員と名乗る男から、内部告発ビデオを受け取る。それは、郵政省の収賄事件を追及する弁護士が殺された事件にかかわるもので、そこには事情聴取を終えて警察署から出た瞬間に、ニヤッと笑う郵政省職員の麻生(陣内孝則)が映っていた。陽子はこの「笑い顔」を挿入して番組を編集する。このシーンを見た人は必ず麻生に疑惑の目を向けることを確信しながら。
 あるシーンだけを切りとってつくられた映像は、凶器ともなりうる。麻生の笑顔は、実は車の陰で遊んでいる子供に笑い返したものだった。この番組によって、麻生の人生は破滅に向かって進みはじめる。職場は左遷され、妻も子供を連れて出て行ってしまう。麻生は瑶子に執ように謝罪を求めてつきまとう。そんなところに瑶子の私生活を映した一本のビデオが届けられる……。
 映画は意外なラストを迎える。サスペンス映画のおもしろさを大いに楽しめる作品だ。黒木瞳が、キャリアウーマンとして男社会で生きる姿や一人息子への切ない思いを好演している。
 井坂聡監督は「テレビには必ずつくり手の意図が入っている。そのことを視聴者に考えてほしい」と語る。テレビ編集の現場を見せることで、そのことが説得力をもつ。テレビから流される情報を何の疑いもなく受け入れている視聴者に、「テレビを疑いなさい」とのメッセージが伝わってくる。
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 私たちが情報源の一つとして毎日見ているテレビは、大衆心理を操作する、巨大な情報管理システムである。
 朝鮮民主主義人民共和国の「テポドン発射」、コソボ紛争、政治家への期待をあおるテレビ番組…繰り返し映し出される映像は要注意だ。誰のための報道か、何のための報道か、よく考えてみる必要がありそうだ。     (U)

【東京・丸の内シャンゼリゼ(三月末日まで)ほか全国各地で上映中】 


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