20000325


ライン作業で血もにじむ
でもおばさんはたくましい

電機工場労働者 中西 靖子


 労働新聞の読者の中には、もうプレイステーション2を手にした人がいるでしょうか。よく見てください。作っている私たちの血がにじんでいませんか。
 私は、あるメーカーの下請けでテレビゲームのコントローラーを作る工場で働いています。時々、ラインの下の方、外観を検査している人が叫びます。「血がついてますよお、誰え〜」。すると、その声は「血だって」「誰よ」とラインの上に伝わっていきます。みんな、慌てて自分の手を見るのです。そう、時間に追われて仕事をしていると、手に傷がついたのも、血が出ているのも、気がつかないんですよね。
 期間工としてこの工場に入った時、初めてするラインの仕事に少々不安でしたが、シール張りから始まって、コードを付けるとか、そのうち、ビスを打つところまで、出世(?)しました。メーカーからの指示で、納品する機種もしょっちゅう変わるので、その都度、少しずつやることが変わります。休む人がいても変わります。でも、変わった方が助かります。痛いところも変わりますから。
 コードをはめている時は、爪(つめ)の先が削れてきました。親指の爪、人差し指の爪、中指の爪、次は人差し指の脇、中指の脇。だんだん痛くなってきて、押し込む位置を変えていきます。時間にゆとりがある時は、工夫して変えていくのです。でも、ラインのスピードが上がっていくと、痛いなどと考えている余裕がなくなってきて、気がついた時は、爪が割れたり、血がにじんでいるわけです。皆、バンドエイドをしたり、テーピングしたり、指サックをしたりと、それぞれに予防はしているわけですが。
 始めのうちは、ビスを打つ電動ドリルの重さは気になりませんでした。でも、一日やっていると、手首が痛くなり、数日のうちに、痛みが消えなくなります。もちろん、サポーターはすぐ買ったし、湿布薬もかかせません。家で夫にぐちを言いながらようすを話していると、夫が驚きました―「バランサーを使ってないのか」。
 私たちの工場では、こん包用に使っている太いゴムで、電動ドリルが天井や梁(はり)からつるしてあります。それだけでも、手に掛かる重さはかなり緩和されます。反対にゴムがきつくて、ひっぱる場合もあります。でも、そのゴムすらなく、その都度、ドリルを持つので、何千回も持ったり降ろしたりする部署もありました。世の中に、「バランサー」という便利な物があるなんて、知らなかったし。
 この小さな工場は、安全管理なんて、ほど遠いところです。もちろん、労働組合はないし、ましてや、期間工は数カ月でほとんどが辞めていきますから、職業病になる前に、皆、ちゃんと辞めて身体を守るわけです。
 先日の職場の新入りだけの飲み会では、会社の悪口がひとしきり盛り上がり、いろいろ情報交換もしました。若いお母さんたちなので、子育てや共通の話題も多く、元気いっぱい。カラオケは深夜まで続きました。「長く勤める会社ではないね」と言いながらも、こんな楽しみがあるので、続いています。

バランサー=重さがかからないように物をつるすもの 


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