20000315


こんな世界があったモンだ
新人建築雑工奮闘記(4)

奈二岡 祝哉


 小生にとって嬉(うれ)しいことは、何といっても、やはり現場監督(多くはゼネコン社員)に「指名」され、呼ばれることだ。
 とくに根性入れた作業が評価された時、その思いが伝わったことに素直に「嬉しい」と感じる。そうなれば、次の現場においては、作業進行上、ほぼこちらの思い通り、好き勝手やりたい放題、意見具申もほとんどオーケー、監督のご威光をかさにきて、一定程度現場仕切りまで可能となる。毎日の仕事の重点部分や要する人員、能力なども思いのまま。休んでいる雑工仲間の増員も可能だ。
 ただし、自分のお気に入りだけを呼び続けるわけにはいかない。何せ仕事量は少ないし、トシ食ったジジイは疑り深いし、嫉妬(しっと)深い。メンツが極端に片寄ればトラブルの原因にもなる。実際、仲間外れにされた気分で脱寮逃亡を企てる者も多いのだ。何せメチャ狭い寮生活と仕事コミュニケーションしか存在しない世界だから、ホント疲れる。

生存する権利を確立せよ!
 
 ところで、寮長だとか職長だとかいっても、「手当」は一切なしだ。職長になると発注者(監督)との約束、つまり作業手順と一日の量、ノルマが課せられるので結構緊張感がある。
 もちろん、その日の目標が達せられなかったら「アウト」。直接事務所にクレームがくるし、次回からはお呼びでナイ。好況の頃は「手当」があったらしいが、ドン底の現在は運転手当とかもまったくなしだ。その意味ではかなり便宜的な役割になっているといえる。
 小生のような未経験の、技術力などさらにない雑工は、だから最初は必死だ。何せ言っている専門的なコトバがまったく分からない。チンプンカンプンのまま仕事にとりかかるわけにはいかないのでシツコク質問をする。ま、ほとんど嫌われるけどね。でもしょうがないじゃないか。こういう時に職長の度量というか、ケツの穴の大きさが分かる。いやイジメられたモンだね、ホントーに。
 だからこそ、ベテランの頭越しに「指名」を受けたりすると、ましてヤツに仕事が入らず、休んでばかりいると、スレ違いざまについつい「ワシ、まだあの現場通ってるよ。先方ご指名だからしょうがないよ、ねぇ」などとわざと辛(つら)そうな顔で話しかけたりして。ワタクシ労働者の味方、なんて思っていても結局、自分さえよければよかったのね、などと深ーく反省することしきり(でもないか)。こういう世界で「労働者の権利」だとか「団結」だというコトバほどシラジラしいものもない。あるとすれば「生きる=生存する権利を確立せよ!」がふさわしい。 


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