20000305


アジアに生きる若者たち
黙々とマレーシアの町を走る(3)

海援隊(海外展開企業等を支援するネットワーク組織隊)
代表幹事 増田 辰弘


 マレーシアに元気いっぱい、はち切れんばかりの若者がいる。それはクアラルンプール市にあるICネットワークの西田基行さんだ。まず、この会社そのものがおもしろい。同社は、日本人が三人おり、この三人がそれぞれ大きな事業を受け持つ体制をとっている。
 まず高木社長だが、もともと都市開発、都市交通の専門家、エンジニアでJICA(国際協力事業団)や現地政府の委託を受けジョホールの都市開発などの調査業務、コンサルティングを行っている。
 次に、ゼネラルマネージャーの竹前雅子さんは、文化・芸術事業を担当している。
 最後に、西田さんの仕事はその他のビジネス全般を担当する。先の二つの事業は当然だが仕事の波があり、収入も不安定であるのに対し、西田さんの方は少々ローテクだが確実な稼ぎをしておこうという事業である。同社の将来の夢のある事業を結実させるため、その原資をつくり出す事業である。
 西田さんのセクションはなんでもやっているが、現在メインとなっているのが印刷業である。現地の日系企業は印刷の出来栄えにうるさい。ローカルの印刷会社ではとても満足できない。そこで、同社ではローカルの印刷会社を買収し、技術指導して優れた技術の印刷会社をつくりあげた。
 この印刷工場は現在では日本人は一人もいないが、ほぼ現地価格で日本並みの技術をもつ印刷会社が運営されている。後は、西田さんが日本人商工会議所や日本企業に営業でまわり注文をとってくればよい。現在ではこの印刷会社、日系人社会で有名になりどんどん電話で注文が入るようになっている。

特別更正施設での体験
 
 このほか、西田さんはリクエストを受ければ、何でもやりますとばかり、旅行代理店用務、日本の地方自治体とマレーシアの州政府との姉妹提携の根回しなど、それこそ何でもやっている。
 ともかく、元気がはち切れんばかりの西田さんだが、終(つい)の住みかと決めたマレーシアは、実は今回が二度目の滞在である。最初は、高校を卒業して大手の自動車会社に三年間勤めた後、海外青年協力隊に応募し、マラッカ州にある犯罪を犯した青少年が入居している特別更生施設で、彼らに溶接と自動車整備を教える仕事である。
 再び世間に出てまた犯罪を犯さないように、しっかり技術を身につけさせようというわけである。その特別更生施設で、彼は最初の三カ月言葉にならないくらいのショックを受けた。彼らが、西田さんの教えたことは何一つやってくれないのだ。ただぼう然と立ちつくす日々が何日も続いた。
 そこで西田さんは一つの決心をした。これはもう自分でやって見せるしかない。それから、彼はただ一人黙々と溶接の仕事や自動車整備の仕事をやって見せた。数日後、山は動いたのである。それまではまったく言うことを聞かなかった特別更生施設の入居者たちが西田さんを見て、彼の後を追うかのように黙々と作業を始め出した。
 それから、一度日本に帰った西田さんは、同じ青年協力隊のガールフレンドと結婚した後、町全体が躍動しているマレーシアが忘れられず、今度は子供連れでやって来た。「一人黙々とやる」。彼らから教わったこの信念のもと、西田さんは今日もクアラルンプールの町へ出かけた。 


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