20000225


映画紹介 釣りバカ日誌イレブン
リストラに異議あり!

監督・本木 克英


 「釣りバカ日誌」シリーズ十三作目の今回は、「職場はあるけど、労働意欲がありませーん」と強気のハマちゃん(西田敏行)も、リストラの波に飲み込まれそうになるお話。
 鈴木建設・平社員のハマちゃんは、今日も早朝から東京湾で釣りを楽しみ、船で会社に出勤するゴクラク社員。一方、相棒の社長のスーさん(三國連太郎)は今回、どことなく元気がない。スーさんは企業が生き残るためにリストラの決断を迫られ悩んでいるのだ。
 ある日、ハマちゃんに、沖縄に転勤した釣り弟子の宇佐木から、「釣り船を買ったので遊びに来ないか」との誘いの手紙が来た。そんな時に渡りに船。スーさんが沖縄出張するのに、お供としてハマちゃんが同行することになったのだ。
 沖縄に着いたハマちゃんはスーさんや仕事のことは頭からふっ飛び、宇佐木といっしょに釣りに出かける。美しい沖縄の海で釣りに夢中になっている時、突然の大雨。船のエンジンがかからなくなり、二人は漂流し始める…。
 その頃スーさんは、女性社長の運転するタクシーで沖縄の観光見物をしていた。女性社長は「社長をしていた夫が亡くなったので、私が社長になったんです。最初に便所掃除をしました。従業員に気持ちよく働いてもらうのが社長の仕事だと思っています」と語る。その話に感銘を受けたスーさんは、あることを決断する…。

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 これまでの「釣りバカ日誌」シリーズはハマちゃんとスーさんの釣りを通した人間的交流を、なんの社会性もなく描いた作品だった。でも、今回の「イレブン」はちょっと違う。コメディ映画でありながらも、ハマちゃんとスーさんの関係は社長と労働者のシビアな関係なのだ。
 「失業をしたのを家族が三カ月も知らなかったんですって」「社長の車の運転手は一番にリストラでしょうね。俺の家族はどうなっちゃうの?」…労働者の本音がつぎつぎと飛び出してくる。
 舞台設定は沖縄。スーさんは平和の礎(いしじ)を参観し、「こんなにたくさんの人が死んだんですね。僕は戦争中、ここで飛行場をつくっていました。…ひめゆりの塔を見る勇気がまだ出ないんです」と話す。沖縄の美しい自然を映す一方で、さりげなく米軍基地も映し出される。
 日本社会の現実と接点をもったことによって、笑いの質が変わり、庶民の共感を呼ぶ作品となっている。

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 こうした映画が生まれた背景には、この作品を撮影中の昨年十月、松竹がリストラの一環として大船撮影所の売却を発表したことがある。松竹労組は「売却反対」の態度を打ち出し、本木監督やスタッフたちが組合員として闘う中で作られた作品なのだ。
 映画の中でスーさんは「人材は企業の宝。従業員が気持ちよく働ければ企業も前進する。うまくいかない時は私が責任をとります」と、リストラで社員の首切りは絶対にやらないと宣言する。
 このセリフは、スタッフの共通の思いだろう。リストラが大手をふってまかり通る世の中に、あえて異議をとなえた映画人たちに拍手を送りたい。
 暗い事件が相つぎ、気持ちまでめいりそうなご時世だが、この映画で大爆笑してみてはいかが。 (U) 


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