20000225


新人建築雑工奮闘記(3)
こんな世界があったモンだ

奈二岡 祝哉


栄養失調集団
 そんな寮でも一人当たりの家賃は高い! ナ、ナントお一人一カ月二万五千円也。メシヌキ(ヒドイ所では風呂なし)でこの値段、驚いたね。賃料をはるかに上回る収益を上げてるって按配(あんばい)だ。真夏のクソ暑い時期、仕事にアブれた者たちがエアコンをつけて寝ていると、電気料金が上がるのを恐れてか、社長は「仕事がないのは時期が時期だから辛抱してくれ。皆も大変だろうが会社も大変だ。昼間寮にいる時、テレビ、エアコンを切って静かにしていてくれ」だと。オンドリャーワシラを殺す気か! ゼニもなく、ロクなものも食えねェでダイエットという名の栄養失調寸前の集団と化している者にとって、せめてものなぐさめである「涼風」すら奪うたア、とんでもねェこった。もはや人間じゃねェ! 何人かの同僚が、現場でダウンした事実を忘れちゃいめえ。鬼、悪魔、人でなし、人間の皮をかぶったゼニ亡者め! と仲間内で悪態をついていても、事務所に行くとゴロニャン。あいつは今月何日仕事に出ただのという話ばかり。仕事の振り分け、配置を行っている少々耳の遠いジジイにまで満面笑みの愛想笑い。よくもまぁ、ここまで変われるもんだと少々気味が悪くなる。

下向きに生きる
 わずか七カ月余の「体験」ではあったが、「仕事をもらう」ことがこんなに大変だとは思わなかった。
 まず事務所にお愛想、次に職長にオベッカ、ベテランにゴロニャン。仕事はやっているように見せ(一生懸命やり過ぎもイカン)、牢名主には時どきワイロ(といっても発泡酒一本が最大努力)、とまあ気ィ使うことも夥(おびただ)しい。それでよーやく稼ぐ日当が涙が出そうな七千円とくりゃあ。因(ちな)みに新人雑工たる小生が最高に稼いだのは二十二日出勤の十五万四千円。そこから所得税、寮費、作業上必要な防塵(じん)マスクなど差っ引かれ、さらに前借金も引かれ、しかも十五日と月末の二回払いで、手にした現金わずか三万五千円。夏枯れの時なんざ、マイナス・ン万円だった。なぜマイナスかというと、まず寮費の二万五千円がある。つまり日当四日分ぐらいだ。その月出たのがたった七日間。二万四千円の残金を二回に分けられてみろ、手許にナンボ残ると思う。しかも、前月、いや前々月ぐらいから引きずっている前借りがあるから、どうやりくりしようにも赤字続きだ。仕方なくまた毎朝千円借りることになる。一日をどうやって千円で暮らすか。栄養失調にならんようには…それが難しい。タバコ二百五十円、発泡酒二百円ですでに残金五百五十円。これで三食を賄うのだョ。ラーメン、ラーメン(エースコックが好き!)、のり弁。これで十円か二十円余る計算だ。
 だから、仕事の往復や町を歩くとき、本当にナメルように下を向いて歩きましたね。ひた向きに生きようとは思っていたが、下向きに生きるとはまったく考えていませんでしたね、ワタクシ。
 しかしそれでも、それなりに楽しい、嬉(うれ)しいことはあった(他の人はどう感じてるんか知らんけど)。次回乞う期待。 
 


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