20000215


労働運動の金字塔「三池闘争」
俺たちにも輝く日がくる

ビデオに仲間の幻影が

トヨタ関連労働者 武田 浩一


 ―林立する、おびただしい数の赤旗、広場を埋め尽くすヘルメット姿の労働者や鉢巻をした女性たち―
 一九六〇年、総労働と総資本の対決といわれ、社会を揺り動かしたあの三池闘争の一コマである。
 今私はビデオになった記録映画「三池闘争」を見ている最中である。
 三池炭鉱の労働者は三井資本が強行する首切り合理化に対し、無期限ストライキをもって立ち上がった。同時にそれは石炭から石油へのエネルギー政策の転換を図る、国家権力との闘いでもあった。この闘いで、労働者たちは実に三百十三日間ストライキを打ち抜き、資本を追い詰めた。そして六〇年安保闘争と結びついて岸内閣を退陣に追いやったのである。三池闘争が戦後労働史上さん然と輝く金字塔を打ち建てたといわれるゆえんである。
 それにしても、ブラウン管に映し出される労働者たちの表情のなんと晴れやかなことか。ヤマで鍛えた屈強な男たちの顔から時おり白い歯がこぼれている。このとき彼らはすでに賃金を断たれ、全国から寄せられた闘争支援カンパによる一カ月一万円の耐久生活を続けている。警察権力の弾圧も日ごと激しさを増している。こんな状況にもかかわらず、労働者たちの顔が明るく輝いているのはどうしてだろうか。ビデオは仲間を信頼し、揺るぎない団結を信じる労働者たちの勇姿を次々に映し出してる。
 私には、四十年前のこの闘争がとても新鮮でまぶしいものに思え目頭が熱くなる。こんなにも労働者が輝いていたときがあったのだ。

闘いのないしらけ春闘
 それに比べ今日の労働者の置かれた状況はどうだろう。ビデオを見ながら自分の働く職場のようすが思い出されてくる。私の職場はトヨタ自動車の一次下請けで二千人規模の会社である。私はそこで二十年余り自動車の組み付け加工のライン作業に従事してきた。職場では組合の春闘要求案の討議が終わり、これから三月十五日の回答指定日まで春闘の時期に入っているところである。しかし、春闘といっても工場前に赤旗一本立つわけでもなく、組合員には時々執行部の交渉報告があるだけで、これといった行動提起もないまま、いつのまにか終わってしまう。こんなことを何十年も繰り返してきた。今年の春闘も表面的にはしらけムードの中で進んでいくように思う。
 
「組合はアホだ」
 しかし、私のまわりでは「こんなことでいいのか」という人たちが、確実に増えている。それは、昨年日産自動車が発表した二万千人削減のリストラに影響されたものである。
 組合は一方で「トヨタの経営者は雇用を守ると言っている。日産とは違う」と言い、他方で「日産のようにならないためには今以上に会社に協力する必要がある」と言っている。しかし、職場の労働者は日産のリストラを他人事とは考えていない。皆、リストラの対象にされる労働者やその家族の苦しみを思い胸を痛めている。
 ある時、いつもふざけてばかりいるKがまじめな顔をして言っていた。「組合はアホだ。日産の経営者もトヨタの経営者も違いなどあるものか。会社が苦しくなれば、やつらは何でもしてくるさ。首切りだってな。トヨタはうまいよ。雇用が大事なら賃上げは我慢しろ、出向や配点には従えと、さんざん無理を押しつけておいて、いざとなれば首だと言い出すに決まっている」。
 あのKが、みんなから軽く見られているKが、資本の本質をよく見抜いているのだ。やっぱり労働者なんだなぁと、労働者の本能みたいなものを見たのを覚えている。それにしてもKは、たいした男だ。Kならビデオの中でジグザグデモを繰り広げる、あの三池労働者の隊列に加わる資格が十分にある。
 まだ表立ってはいないが、トヨタの労働者も奥深いところで少しずつ変わっているように思う。リストラに苦しむ労働者を思う気持ちが連帯に、労働者に犠牲を強いて飽くなき利潤追求の道を突き進む資本への怒りが階級的な闘いへ、次第に振動の幅を広げながら、労働者から労働者へと伝わっていく。そんな日がいつか来る。私のまわりの労働者からも、そんな前兆がわずかだが、しかし確かに感じ取ることができる。
  ◇   ◇   ◇ 
 ビデオはもう少しで三回目を見終わるところである。画面はホッパー決戦を前にした労働者たちの戦闘訓練を映している。三時間近く考え事をしながら見ていたせいか、頭の中がボーとしている。
 するとどうだ。あのお調子者のKが画面の中にいるではないか。労働者二万人対警察機動隊一万五千人の激突するホッパー決戦を目前に控えて、さすがにいつものにやけた顔ではないが確かにKだ。やっぱりあいつも闘いに加わったんだ。Nもいる。あいつ昇格試験受けると言っていたのにやめたんだ。向こうに見えるのは俺たちの組合旗だ。大空の下で悠然とたなびいている。こんな誇らしげな組合旗を見るのは初めてだ。みんなが俺を呼んでいる。ようしっ、俺も急いで隊列に加わるぞ。 


Copyright(C) The Workers' Press 1996-2000