20000101


貧困と差別を映像で追究
フィリピンのスモーキーバレーが舞台

忘れられぬ小頭症の赤ん坊

映画監督 四ノ宮 浩 さんに聞く


 四ノ宮浩監督が95年に製作した「忘れられた子供たち」は、フィリピンのゴミ捨て場で生きる子供たちを描いたドキュメンタリー映画だ。作品は国際的にも高く評価された。現在、四ノ宮監督はパート2の製作準備を進めている。今回はゴミ捨て場で生まれてくる先天性障害の子供たちが主人公だ。フィリピンの現状や映画づくりについて話を聞いた。


 フィリピンのスモーキーバレー(煙の谷)と呼ばれるゴミ捨て場で、「E・T」みたいな顔をしている小頭症の赤ん坊に会ったとき、私はその子に触れられなかった。今までそんな経験をしたことはなかった。でも家族はみんなその子をとても愛していました。フィリピンという国は、障害を持っている子供に対してあまり偏見がないんです。障害を持った子でも、本人たちにしてみれば楽しいことは楽しい。それは当たり前のことですよね。
 その子に会ってしまったことが、自分の中でどうしても忘れられなかった。もうフィリピンで映画を撮る気はなかったんですが、その子と家族を中心とした映画を撮っていきたいと思ったわけです。
 ゴミ捨て場には障害をもった子供たちがたくさんいます。ここでは約三千世帯がゴミ拾いをしており、推測ですが、その中に五百人はいると思います。耳が聞こえない子やダウン症とか。ゴミ捨て場で障害児がどうしてこんなに生まれるんだろうか。僕は、ゴミから発生するダイオキシンや化学物質が、井戸水に流れこんでいるのが原因ではないかと思っています。
 「忘れられた子供たち」を撮影したスモーキーマウンテン(煙の山)は閉鎖され、住民は強制的に仮設住宅に移転させられました。そこで何をやっているかと言えば、やはり同じようにゴミ拾いです。スモーキーマウンテンの向かい側にもゴミ捨て場があって、仮設住宅の約六割の人がそこでゴミ拾いをしています。彼らの生活は最初に映画を撮った時からほとんど変わっていない。彼らは一生ゴミ拾いをしていかざるを得ないでしょうね。学力がほとんどなく英語が話せない。親も小学校をほとんど出ていない。一方で、フィリピンの大企業はほとんどが税金を納めていないという現実もあります。経済が全体的にきちんとしないと貧困はなくならないでしょう。
 この映画は日本ユネスコと共同製作です。二〇〇〇年の平和文化国際年を記念したドキュメンタリー映画となります。どうしたら貧困がなくなり、差別を克服できるのか。そういう問題を自分の中で捨てきれないものですから、そういうことを考えながら映画を撮ろうと思っています。
 今年の一月ぐらいから現地に住みつきます。僕は向こうの日常語は話せます。だから、現地の人とのコミュニケーションはそんなにはむずかしくないですね。ゴミ捨て場に行った時、一日目はすごく臭い、二日目はちょっとしか臭くなくて、三日目はにおいがなくなる。慣れるんですね。僕は毎日ゴミ捨て場に行くことは、性格上耐えられない人間なんですが、そういうことをやらないと真実も見えてこない。
 映画を撮る楽しみは、やはり自分の中で変わってくるものがあるということですね。自分の心の中が日一日と変わってくる。僕の中でこれからどういう生き方をしたらよいのかというのが、この映画に出てくると思います。人間はいろいろ迷います。たとえば、他人の子供よりは自分の子供が大事なわけです。どうしたら同じになるのか。飯を食べてても、どこまでで満足するのか。人間の欲望は果てしないですからね。
 こういう世の中ですから、何か新しい生き方が出てこないとおかしい。僕は人間のどの部分が変わればいいのか、というのを考えています。映画は納得するまで撮るので、これが終わったら答えが出るような気がしています。
 この映画は「五千人の力を集めてつくる」を目標に、一人一口一万円の出資を募り、製作資金を集めています。映画の完成は二〇〇〇年の秋の予定ですが、残念ながらまだ目標額に達していません。ぜひ、皆さんのご協力をお願いします。 

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