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危険な国債大量発行

後代に多大なツケ回し

東京大学教授 井堀 利宏氏に聞く


 小渕政権は、選挙目当てのなりふり構わぬ「景気対策」を行っている。先に成立した第二次補正予算では、総額十八兆円の「経済新生対策」のため、七兆五千億円以上の国債が発行される。これらの対策は大企業優先で、国民や中小零細業者には極めて冷たいものである。しかも、後代には多額のツケが回される。国債大量発行の問題点などついて、井堀利宏・東京大学教授に聞いた。


 最近成立した第二次補正予算で約七兆円の国債が増発されるのをはじめ、九九年末で国債発行残高は三百三十四兆円にものぼる見込みだ。
 国債自身がいちがいに悪いわけではないのだが、現状の借金はぼう大で、借入金なども含めれば五百一兆円にもなり、四百九十四兆円というGDPを上回っている。非常に危険な状況で、このままいくと財政は破たんする。
 このように大量の国債発行ができている背景は、金利が低いことだ。
 先進諸国で日本の財政状況は飛び抜けて悪いが、過去、イタリアが今の日本以上に悪い時期があった。当時のイタリアは金利が高く、利払いがかさんでサラ金財政になった。こうなると、財政状況の悪化が国民の目にもハッキリする。
 現在の日本は極端な低金利で、長期金利も一%台後半でインフレも起きておらず、国債を出しても利払いはさほど増えない。国債を出しても当面は負担感がみえない状況なので、ますます国債に頼っているという状況だ。
 問題はこのままいけるのかということだ。もし高金利の方向に動けば、状況は一挙に悪くなり、最後は破たんしうる。
 破たんをさけ、返済するには税制を変えなければならないが、負担を増やすことには国民が簡単に納得するはずはない。
 そもそも、投入された資金が何に使われたのかなど、このような状況に陥った原因の追及も必要だろう。

クラウディング・アウトの可能性も

 通常、国債を発行し続ければ長期金利が上がり、投資や住宅着工などの手控えにつながるものだ。
 景気刺激をする一方で長期金利が上がるという、ちょうどアクセルとブレーキを同時に踏むようなことになる。これは、国債発行のクラウディング・アウト効果(公共資金による民間資金の締め出し)と呼ばれる。
 現状では、金利はさほど上がっていないので、これは起こっていない。だが、これから景気が回復するとすれば、民間需要が出てくる。この時に国債を出していると、今度はまともにぶつかり合うので、クラウディング・アウト効果が起きるとすれば、これから深刻化するのではないか。

「インフレ待望論」は危険

 民間が国債を引き受けなくなってきているので、このままでは国債の価格が下がり、金利が上がる可能性がある。
 それで、自民党の一部政治家は、「市場がダメなら日銀が引き受ければ」といっている。これは日銀法にも違反するが、要するにお札の発行と同じで、インフレで借金を返そうということだ。
 戦前の日本も、戦争の戦費調達で国債を大量に出したが、戦後極端なインフレが起き、政府は実質的に国債の重みをゼロにした。途上国やロシアにも似た状況がある。これが、これから日本でも起こりうる。
 今、日本はデフレだ。インフレが起きれば税収も上がり、企業もインフレが起きた方がどちらかというと景気がよい。それで、「インフレ待望論」がある。
 確かに、二〜三%の「管理されたインフレ」なら、経済活動にあまり悪影響はない。だが、国債を日銀が引き受けるということで、どんどん国債が発行されると、インフレが加速される可能性がある。
 そうすると、信用メカニズム自体が混乱し、国民生活にも大きな影響が出る。

自自公連立政権は不安定なもの

 小渕政権の最近の政策は「何でもあり」で、選挙目当ては明らかだ。減税とか金融緩和は間接的なものだが、公共事業は政府が直接金を出す。多少景気にも利くので、てっとり早いのだ。こうしたことは、政権維持のための常套(じょうとう)手段でもある。
 小渕政権は連立政権だから、単独政権よりもますます選挙目当てになる。というのは、連立政権は実は不安定なものだからだ。
 現在の連立の場合だと、自民党は自由党はともかく、公明党のことも気にしておかないと、議会で過半数がとれない。その公明党が政権に入ってからまだ時間がたっていないので、連立に入ったことの「メリット」を、有権者に「こういうことをしました」と示す必要がある。そうすると、すぐ国民にアピールするものとして、先の地域振興券や児童福祉手当などが使われる。要するに「これこれにお金を出しました」と、バラまくのがいちばんてっとり早いのだ。
 今年に関してはわずかなプラス成長が見込まれている。これは公共投資や地域振興券などが下支えした面もある。今の景気をよくするのが政府の目標だとすると、バラまきもそれなりに評価できるが、ツケ回しは将来の問題だ。小渕政権は、将来のことよりも、現在の景気対策(中身が問題だが)ばかりを考えているように思える。
 国債負担は将来の世代に負担が押しつけられる。若者も無関心でいるのではなく、政治意識を高めることも必要だろう。


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