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東海村臨界、新幹線コンクリート崩落…

市場主義は大事故を起こす

技術評論家 星野 芳郎氏に聞く


 最近、東海村原子力施設での臨界事故、新幹線のコンクリート崩落事故など、一歩間違えば多くの犠牲者が出かねない事故が相ついでいる。この背景には、利益最優先で安全無視の企業実態があり、その上、政府の「市場万能」「規制緩和」政策がこれに拍車をかけている。臨界事故などの背景について、技術評論家である星野芳郎氏に聞いた。


 このままでは、原子力や新幹線、ジャンボジェットなどの巨大技術によって大事故が起こるだろうというのは、この一〜二年、技術者の間でも話題になっている。
 事故の処理の仕方でも、いつも現場が悪かったことにされ、上層部の責任があまりにも問われていない。それが続く限り、さらに危険なことになる。

「裏マニュアル」は原因でない

 今回の東海村での臨界事故も同様だ。この事故について原子力関係者やマスコミは、事故を起こした会社であるジェー・シー・オーの係員が「国の許可を得た手順を守らなかった上、定められた量以上のウランを投入」したことが原因だとしている。いわゆる「裏マニュアル」で作業していたことが原因だというのだ。だが、ここでは長いこと「裏マニュアル」でやっており、その間、問題は起こっていなかった。
 「正規の手順」では、溶解塔や貯塔などで作業をすることになっていた。それを一部バケツでやったわけだが、現場ではその方が簡単だった。なぜ事故が起こったかというと、従来作業していた燃料と違って、高速増殖炉「常陽」用の、濃縮度が一八%もの高濃度の燃料だったからだ。従来なら、五%以下の濃縮度燃料の作業が大部分だったので、バケツで作業してもまったく安全だった。会社自身も、大部分は通常の原子炉用の燃料を処理しており、臨界事故が起こらないことが当然だった。政府も起こるはずがないと思っていた。
 問題は高速増殖炉そのもので、通常の原子炉よりも三〜四倍の濃縮度の燃料を使用するのだから、本来なら三分の一から四分の一の容量の装置を使えば安全なはずなのに、普通の原子炉用のと同じものを使っていた。実際には、五%以下の濃縮度燃料なら、投入量は十・〇キログラム以下、一八%もの高濃度の燃料なら、同じく二・四キログラム以下と決まっている。だから、「正規の」装置を使っていても、高速増殖炉用の燃料を使っている限り、制限を大幅に超えた作業をすれば、やはり臨界事故は起きた。問題は「裏マニュアル」ではなく、燃料の違いを意識しなかったことだ。
 ところが、会社はそれを差し支えないと思って問題にしなかった。現場の人間は、作業前に専門家に聞いていたのだから、会社上層部と高級技術者は、高速増殖炉のものだから通常とは違うということにピンとこなければならなかった。そうではなかったことが最大の原因だ。
 彼らは、なぜ投入制限量があるのか、それを考えていなかった。現場からまったく遊離している。なにをどうすれば、どういう問題が起こるかということに、まったく関心がない。現場離れ、思想離れで、なぜ、ということを問うていない。

新幹線事故は突貫工事が原因

 これは最近の事故すべてに共通している。
 新幹線のコンクリート崩落事故もそうだ。コンクリートは、不均質な砂利を混ぜてつくるのだから、どこでも同じ状態になるとは限らず、もともと不安定だ。しかも山陽新幹線は四〇%近くがトンネルなので、突貫工事で完成を急いだ。だから、現場の施工がかなりいい加減だった。海砂の使用、作業効率を上げるために規定量以上の水を入れる「ジャブづけ」などが行われたかもしれない。コンクリートは施工で決まるのに、急いだら後で大事故につながるという考えは、当時の国鉄の上層部にはなかった。コンクリートがどういうものかということが分かっていない。
 しかも最初の事故の後でも、どこが危険なのかを上層部は知らないので、現場でハンマーでたたいて検査すべきところでもやっていないケースがある。現場への指令そのものがあいまいだ。これも現場離れの例だ。

労働組合は現場から追及を

 企業の経営者の質が、能力的にも道徳的にも低下しているのではないか。最近の規制緩和や市場万能主義は、それにいっそう輪をかけている。安全を守るために必要な規制はあるはずだ。
 事故を起こしたジェー・シー・オーでは、事故の前に大規模なリストラがあり、しかも親会社のリストラ人員を引き受けることになっていた。だから、その前に作業の一サイクルを早く終えておきたかった。これも原因になっているのだろう。
 本来、このような問題を取り上げて労働組合が動くべきだが、その労働組合たるや、何をしているのか。そこにも問題がある。労組は現場を握っているのだから、現場からどんどん言うべきだ。ところが、現場の汚い仕事は下請けに回すことになっているので、大企業の労働者は管理者のようになっていて、現場から離れている。経営者はさらにその上にいる。
 いままでは下請けががんばっていたから何とかなっていたが、それが効かなくなっているのではないか。生産管理がおろそかになっている。このままでは日本の工業製品の質の低下を招き、経済的にも重大な問題だ。


ほしの よしろう
 1922年生まれ。44年東京工業大卒。立命館大学教授、帝京大学教授などを歴任。専門は現代技術史、技術論。著書に「日本経済の混迷を解く大予言」(青春出版、九八年)など。


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