関　満博インタビュー

990915

中小企業支援は国家的課題

一橋大学教授・関　満博氏に聞く

　首相の諮問機関である中小企業政策審議会は八月二十日、「二十一世紀に向けての中小企業政策のあり方」について中間答申した。同答申の内容は、ひとにぎりのベンチャー企業を育成し、中小企業の定義を拡大して中堅企業への融資を行いやすくする一方、大多数の中小零細企業を「自助努力」の名の下に切り捨てるものである。政府は、この方向で中小企業基本法の大改悪をもくろんでいる。同答申の問題点や中小企業政策のあり方などについて、関満博・一橋大学教授に聞いた。

　戦後、中小企業は小さい企業が多く「過小過多」といわれていた。だから、中小企業を適正規模にしなくてはならないというのが、当時の政府や財界の認識だった。中小企業基本法が一九六三年に成立し、中小企業を最適規模に集約していくとし、合併や協業組合化などが盛んに行われた。つまり、中小企業はマイナーな存在だから、大きくしていかないとだめだというものだった。
　それがドルショック、オイルショックを経たころから、むしろ中小企業が大量にあることが経済の活性化につながるものだ、という認識に変わった。また、協業組合なども実際には欠陥だらけで、できなくなった。個別企業が自分で活動するほうがエネルギーが発揮されたわけだ。八〇年代になると新規創業が減り、むしろ廃業が多くなってきた。
こうした流れの中で、あまねく広く支援してもだめで、一点突破型の支援をしたほうが効果的だろう、という議論がされてきた。そして、ベンチャーへの支援という今回の法改正につながっている。
　戦略的に発展しそうなところへ支援を集中すること自身は間違ってはいない。だが、小規模零細企業への目くばりをきちんとしなくてはならない。中小企業政策審議会の答申はその点で、小規模零細企業にどう支援するのかが見えてこない。そこが問題で、政策の場に小規模零細業者の不安をはっきり声にしていかなければ、支援が薄れていく懸念がある。

商店街は地域の公共財

　これから見ていかなければならない問題として、例えば、小売商店・商店街の問題がある。
　郊外に大型店がどんどんできているが、これまで身近にあった商店街が惨たんたる状態になる。商店街が歯抜けになっていくと、地域社会はどうなるのか。これまで歩いて五分十分で行けた商店の集積が、地域を和らげていた。市場原理で放置すれば、商店街は衰退する。長期にみれば商店街の存在はプラスである。商店街は地域の人びとの生活を支える公共財であり、市場原理だけに任せるのではなく維持すべきだ。
　では、どうやって維持するかだが、まず第一に、商店、商店街自身に自分たちのあり方を考えてもらう。たとえば、障害者の人はスーパーにいってカゴをもつのが一番つらいという。だったら、商店ではそういう人びとに対応できる仕組みを考える必要がある。
　第二に、郊外の大型店は「車で来れば安く売ってやる」というものだ。だが、そうした考え方でいつまでもやれるはずがない。大型店自身も地域の人びとにどうサービスするのかを考えるべきである。
　そして、われわれがどうするかだ。安いからといって、スーパーに行けばよいのか。むしろ、地域の発展や将来を考えて商店街を育てるという考え方に立つべきだ。そして商店街で買物をするぐらいにがんばらないと、商店もがんばれないだろう。

モノづくりは市場原理ではダメ

　製造業では「モノづくりミニマム」という概念をつかうが、モノをつくるのにいろいろな技術が必要である。中小企業は、横の競争とユーザーの締めつけという縦の競争でがんばってきた。それで、日本のモノづくりは高いレベルになった。
　ところが技術革新は、それぞれに違う影響を与える。一番影響が出たのは、ＮＣ（自動旋盤）などの機械加工、板金、プレス加工などだった。逆に影響を受けなかったのは、鋳物、熱加工などだ。しかも、それは「３Ｋ」だ。したがって、減ってしまう。企業数が減れば意気が上がらず、技術も下がってしまう。
　これを放置すれば、日本は何もつくれなくなってしまう。だから、技術力が高いレベルにそろうように、どうやって支援するのかは国家的な課題である。だから、中小企業支援については、公共財としての考え方で対策を打つことも必要だ。
　製造業、モノづくりには追風が吹いている。①ゼンキン連合がはじめた「モノづくり基本法」が春に成立した、②表彰だけだがスーパー技能者の認定が初めて行われた、③二〇〇二年だと思うが、埼玉県行田市にモノづくり大学ができる、これらが「モノづくり三点セット」といわれるものだ。ようやく、モノづくりが見直されてきたのではないか。もちろん、たとえばスーパー技能者に年金をつけるなどの社会的経済的裏づけをもたなければ活きないが。
　モノづくり基本法、科学技術基本法で中小企業をサポートしていくことが大事だ。一国のよって立つモノづくりを市場原理だけに任せるわけにはいかない。商店街も同じだが、技術は崩れるのは早いがつくり直すはたいへんだ。
　
　少子高齢社会がやってくる。さまざまなレポートがだされているが、「高齢社会と産業、企業」という視点のものは少ない。高齢者人材センターなどもあるが、実際には駅前自転車の整理、公共施設のペンキ塗りなど３Ｋの仕事しかない。これが豊かな社会なのか。
　高齢者は元気であり、これまでの経験を活かして働きたいと思っている。そういう人を受け入れられるのは地域の商店街も含めた中小企業でしかない。だから、意識的に地域のあり方、町のつくり方、企業のあり方などを考えた産業政策、地域政策が必要になる。そうした政治が求められている。

せき　みつひろ
　１９４８年生まれ。７６年、成城大学大学院卒。東京都商工指導所、東京情報大学講師、専修大学助教授を経て現職。専門は産業論、中小企業論、地域経済論。「アジア新時代の日本企業」（中公新書）、「新『モノづくり』企業が日本を変える」（講談社）など著書多数。