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日本は台湾問題に干渉するな

日中友好会館副会長・野田 英二郎 氏に聞く




 ユーゴ空爆以降、米国はいっそう露骨に他国の内政に干渉し始めている。日本も、新ガイドライン関連法の成立以降、日米軍事結託を背景にアジアでの大国外交を強めている。こうした日本の動きは、アジア諸国と敵対し、日本の国益を損なうものである。日本外交の最近の動きについて、インド大使などを歴任した日中友好会館副会長の野田英二郎氏に聞いた。


◆米国は北大西洋条約機構(NATO)を使い、「新戦略概念」を適用してユーゴ空爆を行いましたが、どのようにお考えですか。

野田 米国がコソボ空爆をしたことにより、世界の政治、軍事情勢が新しい段階に入ったとみてよい。米国の軍事力が他と比べると圧倒的に強くなり、文字どおり唯一の超大国になった。特にNATOの地域外で一つの価値観に基づいて戦争をした。しかも、米軍は一兵たりとも戦死していない。従来みられなかった事態が出現した。

 これから日本の問題、アジアの問題を考える上でも、頭の中に入れておくべき重要な前提だと思う。

中国のナショナリズムと敵対するな

◆新ガイドラインが制定される中で、日本が、ある種の大国外交を目指す動きがみえます。今年四月発表の「日本国際フォーラム」の「政策提言」はその典型的な例です。こうした動きをどのようにみますか。

野田 中国は、以前から歴史認識と台湾の問題というのは、日中関係にとって基本的な問題だということを何度も強調している。そして、去年十一月に江沢民主席が訪日したときも歴史問題を非常に強調した。しかし、これについて日本のジャーナリズムも政治家も大多数は、正確に問題の本質を理解していないのではないか。

 二、三年前に橋本首相(当時)が中国へ行く前の講演で、日中平和友好条約は歴史的使命を終えた、今後は未来志向で考えるべきであると言ったことがある。これでは「日本人はできるだけ昔のことは忘れようとしている」という猜疑(さいぎ)心をおこさせる。戦後すでに半世紀をすぎた今の日本人の大多数は、一九四五年以前のことはあまりはっきり意識しなくなってしまった。

 しかし日本が自国の利益のために、アジア大陸に軍事力に依拠して、政治的経済的支配をおよぼそうとしたのは、一九三一年の柳条湖事件からではなく、日清・日露戦争にさかのぼる。特に日露戦争に勝ったことによって日本が非常な自信過剰に陥ったことが、その後の日本の暴走と孤立を招いた。

 日露戦争の勝利で、日本の国際的地位が上がった段階で日本に対する警戒心が国際的に高まったにもかかわらず、日本はわきまえるべき限界をわきまえずに、世界の一流国家になったと思いこみ、十九世紀にヨーロッパの帝国主義の真似をして、東アジアで覇権をもとうとした。

 そして中国の東北地区にある権益を拡張解釈して、日本国内で「満蒙は日本の生命線だ」という国論をつくってしまった。今、台湾に対して基本的に同じような態度をとる傾向が、日本の中にあることは否定できない。台湾を「周辺事態」から外さないことが抑止力をもつと日本政府当事者も言っているが、そのような態度で利益を得るのは、米国であって日本ではない。

 「日本国際フォーラム」の政策提言は、「日米両国は『台湾の武力解放へのノー』という基本姿勢を協調して堅持すべき」と言っている。これは、コソボで実証された米国の圧倒的な力を背景にすれば、日本もまた中国に干渉できるといわんばかりで、非常に危険だ。

 日本が一九四五年の敗戦に至った理由は、日清・日露の両戦争以後、一部の有識者―幣原喜重郎のような例外―を除けば、日本の多くの指導者が中国ナショナリズムを敵にしたからだ。日本として中国のナショナリズムと敵対するという致命的錯誤をもう一度繰り返すべきではない。これが歴史の最大の教訓である。

 中国からみれば、日本は「日米協力関係が大事だから仕方なしにやっている」という顔をしながら、実際は、米国を利用しながら、かって大陸に進出したような政治的野心を台湾に対して示したもの、とみるだろう。

 しかも実際の見通しとしては、米国と中国が戦争をするはずがない。米国は、台湾海峡で政治的軍事的な緊張状態をつくって、米国が中国に圧力を加えるお手伝いを日本にさせる。それから、台湾問題に日本が巻き込まれれば、日中の相互不信が強まり、中国は「米国との関係を大事にしなければ」と思う。だから日米安保に台湾問題をからませれば、米国にとって一石三鳥、四鳥の効果がある。

 結局いざとなってハシゴをはずされるのは日本だ。中国との相互不信だけが残り、ダメージをうけるのは日本だけ。日本は戦前の失敗の歴史の教訓をしっかりと念頭において、そんな馬鹿なことにならないようによく考えるべきだ。

日米安保を考えなおすべき

 現在、憲法改正の問題が表面化しているが、日本の憲法は事実上解釈改憲されているといっってよい。憲法より一段上にあるのが、日米安保体制だ。従って、改憲してもしなくても、現実の問題としては、どの程度差があるのか。やはり日米安保を再検討することが先決ではないか。

◆日本の外交・安保政策はどのようにあるべきでしょうか。

 

野田 やはり基本的には、日本国内でいろいろな選択肢を考え、議論をすべきだと思う。戦前の日本は挙国一致、一億一心で戦争をした。残念ながら今でもそうだが、何か右へならえで、すぐ国論が簡単にひとつになる傾向が日本にある。日米安保は考えなおさなければいけない。

 沖縄でサミットをやってクリントンに沖縄の状況を知ってもらうというが、沖縄の状況を知り、考えるべきは日本の政府である。外国の首脳に今更沖縄を見せてどういう意味があるのか。

 また、二国間の軍事同盟は、仮想敵国が当然想定されている。旧ソ連が崩壊した今、日本はどこに仮想敵国があるというのか。二国間の安保条約でなく、集団的安全保障を考えないといけない。


のだ えいじろう

 1927年生まれ。東大法学部卒。外務省入省後、北東アジア課長、外務省研修所長、ベトナム、インド大使などを歴任。現在、日中友好会館副会長、日印調査委員会日本委員長。著書「海外からみた日本」(露満堂刊、近日発行)。


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