990905


周辺事態法施行、闘いはこれから

職場、地域から死文化させる闘いを

安保破棄、アジアの平和・共生のガイドラインを




 新ガイドライン関連法の成立を受けて、八月二十五日、周辺事態法が施行された。これによって新たなより危険な安保体制が動き出した。自治体や航空、港湾などの民間が戦争協力させられることになった。こうした中、海員組合などの協力拒否の闘いが始まっている。渉外関係主要都道府県知事連絡協議会は七月二十九日、米軍の入港などに際し、自治体を尊重するよう求める要望書を政府に提出した(別掲)。周辺事態法施行下でどのような問題が発生するかを暴露し、どう闘いを発展させるか切実な課題になっている。東京国際大学教授の前田哲男氏に聞いた。


新安保の危険な2つの柱

周辺事態法に基づく政令が八月二十八日、公布された。九六年四月の日米安保共同宣言で方向づけられたガイドラインの改定、新しい安保体制が実際に動き出した。

 これによって安保の新しい段階は、法制面から実施面に入っていく。それは、二つの重要な柱をもっている。

 一つはこれまで安保条約になかった「周辺事態」という行動領域を設定し、実質的な安保改定が行われた。ここから、自衛隊の海外派兵という新たな任務がもうけられた。

 また在日米軍基地の活用にかんしても、従来にない事前協議抜きの広範囲の地域戦争に無制限に利用できるようになった。これが戦争協力法といわれるゆえんである。

 二つ目は、外に向けた軍事力の活動を保障する国内措置が、ガイドラインおよび関連法で規定された。そこでは地方自治体、民間での安保協力義務が規定された。

 ガイドライン協力の関係省庁は、外務省、防衛庁はもとより、一見なんの関係のなさそうな環境庁、文部省、食糧庁など三十四のすべての省庁が入っている。

 したがって、それぞれの機関から地方自治体と民間に協力要請が行われる。つまり、国のすべての機関から包括的な上下関係、協力命令が出ることは明らかだ。

 政府「解説」では十三の項目例がある。たとえば、医療では病院に傷病兵を押しつけることはしない。しかし増床で受け入れるのは可能ではないか。学校を施設として使用しないが、公民館、体育館はその対象となる。しかも、これは周辺事態が発生した時ではなく、平素からの協力の中で準備をしておかねばならない。そうすると、たとえば防災訓練のような形かもしれないが、日常的な民生を軍事に組み込む行動が出てくる。

仕上げは「国家総動員法」

ここ数年の日本の政治状況、安保の流れをみると、ガイドラインそのものの動きと、それを支え相呼応する「ガイドライン症候群」という二つで成り立っている。

 「ガイドライン症候群」とは、盗聴法、住民基本台帳法による国民総背番号制、地方分権法での沖縄特措法の再改悪など権利剥奪(はくだつ)的な動きである。ガイドラインと「ガイドライン症候群」が相呼応しながら、一連の反動的な法律制定に動いている。その動きを促進するのが北朝鮮の「テポドン」に対する世論操作である。一年前から始まった北朝鮮脅威キャンペーンの中で、ガイドライン、関連法案を現実化した。その中に憲法調査会設置が仕上げの形で位置している。

 次のステップは有事立法である。戦争体制の中に国民生活を位置づけた「国家総動員法」と同じ機能の法律制定の動きが出てくるだろう。

 防衛庁は、一九七八年に有事法制の正式の研究をはじめ、中間報告が八一年と八四年に発表されている。問題は第三分類といわれる現にない法律の新設である。つまり現憲法下ではあり得なかった法律である。

 では、第三分類はどういうものか、手がかりはある。六三年の三矢研究はまさに第三分類にかんして、朝鮮有事を想定し、日米協力を法的に決めたものだ。そこでは、七十八ないし八十七件の有事法制が必要で、審議をしていたのでは間に合わない。委員会審議を抜きに本会議に一括上程し、二週間で成立させる、というものだ。検閲はもとより、労働組合の活動禁止をはじめ、基本的人権、地方自治などを完全に否定するものとなっている。

軍事威圧にアジアは強く反発

アジア・太平洋諸国からすれば、この新安保を自分たちに向けられたものとして、警戒しているのは間違いない。ちょうどこの時期、ヨーロッパでは北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が進行していた。NATOの東方拡大に呼応するように、日米安保の西方拡大が行われた。どちらも米国の主導下で行われた。

 NATOは新戦略概念を採択し、従来の領域内の共同防衛という任務を領域外へ拡大した。いわばNATOの周辺事態が実施された。NATOも日米安保と同じく条文を変更せず、共同宣言で従来と違ったものにした。これはガイドライン、周辺事態法による安保再定義、任務の拡大と同じ流れだ。冷戦後の米国の同盟国との関係が再定義され、米国の一極支配のもとに位置づけられた。同盟国の役割は従属的であり、主導権は米国にある。

 別の目でアジアから見れば、北朝鮮、中国をより敵視する軍事体制と受け止められている。そのもとで行われる共同演習、戦域ミサイル防衛(TMD)構想の開発協力、情報衛星打ち上げを日本の脅威とし、強い警戒心と反発を招くことは間違いない。

 私は八月に北朝鮮を訪問した。平壌で当局者と話したが、「自分たちへの軍事的圧力をより強化」したと受け止めていた。戦争に対する謝罪、補償もなく、軍事的圧力を加えるやり方に強い反発があった。だが、北朝鮮は警戒心をもちながらも、日本の出方によっては交渉を歓迎する態度だと感じた。

 日米安保の拡大・強化で、日本の安全もアジアとの平和、共生はありえない。なぜならそれは、米国の世界戦略に位置づけられた従属的な関係だからだ。米国の地域戦争でパートナーをやらされ、アジア・太平洋全体に対し、とりわけ北朝鮮、中国に軍事的威圧で臨むのは間違いない。

 共生と平和のためのガイドラインをわれわれが示していくべきだ。そのためには、北朝鮮との国交交渉、戦後処理としての謝罪と補償が必要である。日中関係で言えば、七二年の共同声明、七八年の平和友好条約で約束した対中政策が原則になる。台湾問題もこれらの原則にそって、内政問題として位置づけ対処して行くべきだ。その上で、対立が紛争、戦争にならないように、アジアの平和の枠組みを示し、協議していくべきである。

自分の持ち場で非協力の闘いを

周辺事態法が実施されれば、地域、職場に何が降りかかってくるのか、まず知ることだ。港湾、航空、医療、自治体には協力命令がくるわけで、それを自分たちの問題に当てはめて具体的に読みとることだ。

 残念ながら法律はできたが、この国には憲法があり、基本的人権も守られている。地方自治も憲法の柱としてある。一安保特別法で憲法が無視されることはありえないことだ。

 われわれが、憲法の国民の権利や基本的人権に依拠して、がんばろうとすればまだまだいろいろな手段がある。たとえば、自治体は条例をつくる権利を認められているのだから。そのためには、周辺事態法が自分の職場に、地域にどんな関係をもっているのか、まず点検することだ。法律論ではなく、リアルな検討が必要だ。

 全日本海員組合は、イラン・イラク戦争、湾岸戦争の経験から個人の就航拒否権を重視してきた。そして、それを労資協定としてつくってきた。

 国際民間航空条約(シカゴ条約)では、軍への協力については「民間航空の乱用は安全に対する脅威となる」とうたわれている。それに基づいて日本の航空法がある。かつて日本航空で沖縄から武器を輸送しようとして、機長がみつけて、おろしたことがある。

 こうした動きが全職場に広がれば、やりようがある。

 これからは、こうした運動が重要になるのではないか。だから、周辺事態法反対の運動は、終わりではなく、これからが始まりだ。


渉外知事会が政府に要望

基地対策に関する要望書(要旨)

 日米地位協定に基づき堤供されている「施設及び区城」(米軍基地)を抱える地方公共団体は、基地の存在およびその運用に伴う諸問題によって地城の生活環境の整備・保全や産業振興等にさまざまな障害を受けており、その対策に日夜腐心しているところであります。

 また、航空機事故、艦船の事故や弾薬等による事故への不安、航空機等の騒音による被害の増大、環境汚染、米軍人による事故や犯罪の発生、駐留軍従業負の雇用問題など、基地に起因する問題は広範多岐にわたるとともに深刻化しております。

 こうした中で、平成9年9月には、新たな「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)が策定され、さらに、その具体化に向けて平成10年4月28日には、「周辺事態安全確保法案」等が国会上程され、本年5月24日には参議院で可決、成立したところであり、周辺事態が生じた場合には、地方公共団体や住民生活、地域経済活動に影響を及ぼすものと考えられます。国は、7月6日には「周辺事態安全確保法第9条(地方公共団体・民間の協力)の解説(案)」を公表し、協力にあたっての手続き、期間、程度などの具体的な内容がある程度示されたところです。

 しかし、米軍艦船の入港に関する手続きや複数の市町村、民間企業が協力の実施主体となる場合において、都道府県に期待されている相互調整などについては必ずしも明確ではありません。

1、米軍基地の整理、縮小と早期返還の促進および基地跡地の地元優先の公 共利用を図られたい。

2、日米地位協定とその運用について、適切な見直しを行い、改善を図られ たい。

3、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」の積極的な運用を図 られたい。

4、基地交付金、調整交付金の増額を図られたい。

5、駐留軍従業員および離職者対策の拡充、強化を図られたい。

6、周辺事態安全確保法等の運用にあたっては、地方公共団体へ適時・的確 な情報提供に務められるともに、その意向を尊重されたい。


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