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カジノ資本主義は規制できるか

国際未来科学研究所代表・浜田和幸氏に聞く




 昨年九月の有力ヘッジファンドLTCMの危機は、世界経済を滅ぼしかねないところまでマネーゲームが肥大化したことを示している。ケルン・サミットではヘッジファンドの監視、短期資金の規制などが一応合意されたが、それが具体化される保証はない。ヘッジファンドの発生とその危険性、日本がとるべき態度などについて国際未来学者の浜田和幸氏に聞いた。


◆ヘッジファンドの危険性についてお聞かせ下さい。

浜田 これはカジノ資本主義だ。まず投機家がいる。次にばくち場があり、ここにお金をつぎ込む。ただし、つぎ込んだ人は金はあるけれどもこのゲームにどうやって勝てばいいのか分からない。ここでヘッジファンドが登場する。はっきりした数は分からないが、三千から五千社あって、こういった戦略で短期間に増やせますよ、と宣伝をする。戦略は各社各様だが、ソロスが得意とする、大きな世界の政治や経済の先を読んで、どの市場のどの為替にどういう形でお金を流すともうかるのか、というマクロ。それとセクターに大別できる。後者は特定の企業や業界にかんする内部情報をつかんでもうける。両者を組み合わせての運用もある。

 ヘッジファンドというのは、有効に働く側面もあり、一概に危険視するのも問題だ。新興市場は常に開発資金が不足しがちだが、こういったプライベートなお金が入ることによって、その国の経済の基盤をつくる大きなプロジェクトが可能となる。

 だが、それが行きすぎてバブルが膨らみ、市場がどんどんゆがんでくる場合もある。しかもアジアの通貨危機の場合のように、意識的に市場を混乱させて利益を上げようとする国際的な投機家集団の動きには、国家といえども対抗できない。

 実際にわれわれが目にしているヘッジファンドの原形は一九四九年で、『フォーチュン』という経済雑誌の記者が、この会社の株は上がりそうだとか、危なそうだとか、いろんな株をうまく組み合わせることによって大きなリターンが得られるような分散投資の手法を編み出した。これで彼は大もうけをするのだが、基本的に言うと、元もとリスクを「ヘッジ=避ける」ための方法だ。

 ただしそれだけでなく、「レバレッジ=テコの原理」で少しの金をもとでに金を借りて、掛け金を大きくして投機する。この両方を組み合わせることで戦略の種類が豊富になっていく。

肥大化したマネーゲーム

 七〇―八〇年代になってコンピュータ技術が進んでくる。その流れの中でヘッジファンドを取り巻く環境は肥大化する。損を「避ける」方法から「いかに大もうけするか」を追求する手法に変わってきた。

 九八年に破たんしたLTCMの場合もそうだが、ヨーロッパ、米国の大手の金融機関が運用を任せるようになってくる。LTCMが破たんしたときは、債権者会議がニューヨーク連銀の主導で開かれたが、出席者は他の投資家がどのくらい運用を任せていたかということは誰も知らなかった。レバレッジがどんどんふくらんで途方もない状況になっていたためである。そこで連銀の圧力で三十四億ドル近い救済資金がかき集められ、この倒産の余波が世界に波及しないようにするという護送船団方式をとらざる得なくなった。まさに世界経済を滅ぼしかねないところまでマネーゲームが肥大化してしまったのである。

◆カジノ資本主義に対して日本がとるべき対応は?

浜田 ケルン・サミットで日本政府は米国、欧州と協議をして短期資本の急激な移動は危険だから、金融機関からヘッジファンドへの資金の流れに関する情報公開を義務づけようと提案した。もともと米国は反対していたが、妥協の産物で四半期ごとに機関投資家(金融機関)が運用を任せる場合には、情報公開をすることで合意が得られた。しかし問題なのは個人の資産家には規制の網がかけられないことにある。特に米国は個人の資金量の方がはるかに大きい。ケルン・サミットの合意だけではヘッジファンドのもっている危険性をコントロールできない。

 現在の世界経済の状況を見たとき米国は非常に好景気で、世界はこれで支えられているというようにいわれるが、その繁栄は幻想だ。米国は自分のところでドルを印刷できる。基軸通貨国なわけだからモノをつくっていなくても貨幣を印刷できることによって富が膨らんできている。

 米国の場合は個人の家計にしめる株の比率が五〇%を超える状況になっている。富裕層になればなる程資産に占める株の比率は高い。自分たちが稼いだお金を株に投資して、株価が一万一千ドルを超えていくことによって自分たちはすごい資産家になったという幻想を抱いている。だが上がったものは必ず下がる。必ずどこかでしっぺ返しが来る。

 そうすると米国がこけたときに日本がどうやって津波に飲み込まれないようにするかということを今から考えておく必要がある。

自前の情報と戦略を

 対応策は三つあって、一つはドルに対する過剰な依存はやめるべきだ。中国だってドル、ユーロ、円、を分散して持っている。日本の場合は対外的な援助をするときもドルでやってきた。自前の円の経済圏をアジアの中につくっていくとか、もっとユーロと連携を深めていくとか、ドルに対する過度の依存を改める必要がある。

 二つ目は、マネーゲームに振り回されず、もっと自分たちが本当に納得できるようなモノを作る。国内で自分たちに必要なモノや食料の自給率を高める。そのために持っている技術を生産的な方向に傾けるべきである。

 三番目は、政治的外交的努力。世界全体のことを考えれば、米国に対しても主張すべきは主張する。自分たちの国は自分たちで守る。そのためには情報も戦略も自前のモノを持つ必要がある。

 今回のアジアの通貨危機が発生したときにも、困った国が日本に協力してくれといろいろ言ってきた。ところが大手民間企業はほとんど危ないからと言って逃げてしまった。アジアの側からすると日本は都合がよいときだけは来るけれども、自分たちが困ったときは真っ先に逃げ出していく、信頼できない国と映ってしまう。そのような姿勢は日本の将来のために決してプラスにならない。


はまだ かずゆき

 一九五三年生まれ。東京外語大卒。米ジョージ・ワシントン大学大学院政治学博士課程修了。現在、国際未来学者として多方面にて活躍。著書に『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『ヘッジファンド』(文春新書)など。


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