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「日の丸・君が代」の法制化に反対

アジアに敵対する軍事大国化の動き

中央大学教授 植野妙実子氏に聞く




 政府は日の丸・君が代を国旗、国歌とするため六月十一日、「国旗および国歌に関する法案」を国会に提出した。「自自公」体制で新ガイドライン関連法をはじめ盗聴法、労働者派遣法改悪、住民基本台帳法改悪など悪法が次々に成立させられようとしている。共産党が「柔軟」路線のあかしとして「国旗・国歌の法制化の容認」に踏み込んだ裏切りは重大である。日の丸・君が代問題について中央大学教授の植野妙実子氏に聞いた。


◆「日の丸・君が代」法案が国会に上程されました。

植野 私が研究している現行フランス憲法には国旗・国歌という規定はあるが、日本でもそうすればよいとはならない。フランスの場合には、その国旗・国歌というものが積み重ねられた歴史的意味をもっており、国民的な幅広い合意がある。何よりも今の共和制の元になったフランス革命のなかで自分たちが歴史的につくりあげてきた自負がある。

 日の丸・君が代については、国民の側からそういう意見があがってきて法律をつくるということではなく、論議を闘わせている状況であるにもかかわらず、強行的に行われていることが非常に問題である。国民の中に根強い反対もある。ましてや君が代の「君」が天皇を指すとなると抵抗を感じる人も多い。とても国民に定着している、といえるような状態ではない。

 もう一つ重要な点は、日の丸や君が代をどういうところで使うのかという問題だ。国が基本となって何かをやるときに限定されるべきだ。

 日本では祝日に日の丸を掲げることが各家庭で慣習的に行われているが、各家庭というものと国家というものは別の存在だ。法制化されれば家庭でも日の丸を掲げることが肯定され、促進されるだろう。フランスの場合、国の機関である市町村の役所では国旗を掲げている。しかし、家庭が国旗を掲げることはまず考えられない。これはフランス人から指摘されるまで私も気づかなかった。

 また政府の意向は、学校の行事においても日の丸・君が代を進めたいのだろうが、教育の国際化で外国人が入学することを広めようという流れにも反することになる。国旗・国歌の尊重の強制は許されない。また日の丸がもっていた戦争中のイメージというものは計り知れない。

◆この法案が出てくる背景は何でしょうか。

植野 周辺事態法など新ガイドライン関連法を成立させたということから始まって、これまで反対が根強くあったものを自自公、または自自を中心とする勢力によって強行していくという姿勢が非常に強くみえる。盗聴法についても―通信傍受法と言えということだが―また国民総背番号制につながる住民基本台帳法改悪についてもよいチャンスであるからつくりあげてしまおうという気持ちが強く感じられる。

 社会党を政権のなかにとり入れることによって社会党が実質的に解体されるに至ったということがバックにある。結局小選挙区制なども絡んで野党の大きな拠点を崩壊させたことによって怖いものがなくなった。

 だから、大きな転換期を迎えている。これから少子高齢社会がますます進み、経済的、社会的弱者の保護ということが懸案になる。EU諸国では社会的、経済的弱者を保護することを考える政党が主流になっているにもかかわらず、日本は逆の流れになっている。経済的強者にとって意味のある自由でしかない、そういう強者のための自由主義が推進されているということは問題である。

 日本では裁判の中で行政行為や立法行為の憲法適合性を問うことも難しい。今後は行政裁判などで国家責任をどう追及していくかも検討していかなければいけない。

 国民は政治の流れ自体が一定の方向に向かっていることに気づくべきである。周辺事態法など米国との関係をいっそう強力にしていくという方向に進んでいる。そのことがアジア諸国と友好関係を強くすることに結びつくのか。そうではない。日本がアジアの諸国から浮き上がるような形になっている。欧州との関係でも、欧州と自主的な立場で公平につきあうのではなく「米国と関係の強い日本」という形でしか理解されないということが問題だ。


うえの まみこ

 中央大学法学部、同大学院卒。現在、憲法、法学、環境権を担当。男女平等・平和主義・裁判制度・営業規則などが専門。著書は、「『共生』の時代の憲法」(学陽書房)、「法女性学への招待」(共著・有斐閣)など。


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