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住民基本台帳法改正でどうなる

国家がすべての情報を管理

日本キリスト教協議会 大津 健一 総幹事に聞く




 住民基本台帳法改正案が六月十一日、自自公の賛成で衆議院地方行政委員会を通過した。国民すべてにコード番号をふり、氏名、住所、性別、年齢を全国オンラインセンターに登録する。最終的には全情報が国家権力の管理下におかれる危険性が強い。日の丸・君が代法案の国会上程も含む一連の動きの背景や住民基本台帳法改正の問題点などを日本キリスト教協議会総幹事・大津健一氏に聞いた。


◆日本キリスト教協議会の組織と活動を教えて下さい。

大津 日本ではカトリックとプロテスタントの信徒あわせて百二十万人といわれ、その半分がプロテスタントだが、私たちは三十三のプロテスタントの教団と団体よって成り立っている。教団としては日本基督教団やルーテル教会などが入っている。団体では日本YMCAやYWCAなどです。一九四八年に設立されて、五十年以上の歴史を持っている。

 私たちの大事なポイントとしては、過去の歴史をきちっと見直すこと。教会が軍国主義に協力してきたという歴史に対する深い反省に立って、今日の問題にどう応答してくのか、という問いかけを受けている。

軍事大国への国内整備

◆新ガイドラインに続き、盗聴法など組織的犯罪対策法案、住民基本台帳法改正案、日の丸・君が代法案と危険な動きがやつぎばやです。

大津 盗聴法のなかには外国人の会話については全部盗聴して録音してもよい、というのがある。例えば移住労働者、場合によってはオーバーステイの人たちの人権問題とかの相談を受けていて、「不法在留者」を幇(ほう)助したという罪に問われていく可能性もある。

 こういう時代だからFAXやEメールも対象になる。宗教、市民運動、労働組合とか関係なしに拡大解釈され、適用されていく可能性がある。非常に危険な法案だ。

 一方では、入管法とか外国人登録法の改正があって、在日韓国・朝鮮人や在日外国人の指紋押捺は全廃するということだが、常時携帯制度は相変わらずあるわけで、外国人への管理だけでなく、監視をもっと強化するような方向がみえる。監視の一環として盗聴法も関連づけられる。

 ますます管理された社会になり、一方では新ガイドラインによって戦争と軍事大国へ向かっていく足がかりをつけながら、国内では国民(市民)を管理、監視していく枠組みが非常に強くできている状況だ。

 宗教界からすると日の丸・君が代問題も非常に大きな問題として考えている。もし法制化されれば、その次は靖国神社の国営化の問題が出てくる恐れがある。そういう一連の流れが続いている。

 日本は歴史教育がきちんとなされていない。戦争責任をあいまいにして戦後補償をしないできた、そのツケが今出ている。

 私は八年間、アジア・キリスト教協議会というところで働いた。ちょうどPKO問題があって、現地の新聞を注意深くどういう反応があるのか見てきたが、日本という国に対するアジアの人たちの不信感はすごく強い。日本の過去のあり方に対する反省がない、と言う。

 戦後は経済侵略という実態がある。タイとかマレーシア、フィリピン、太平洋諸島などに対する森林伐採。企業進出をすれば、トップはみんな日本人。下働きに現地の人を使う。労働者に対する人権抑圧があるという話を現地の人からいくつも聞く。立派な企業といわれているところでも公害のたれ流しをしている。買春観光なども相変わらずある。

 もっと耳をすませてアジアの人たちのいうことを聞いていく努力をしていかないといけない。日本が軍事大国としてアジアに君臨することを非常に警戒しているということを日本はもっと理解すべきだ。

憲法に反する人権侵害

◆住民基本台帳法改正の問題点は?

大津 総背番号制という形で理解している。これはずっと前にも出そうとして出せなかった法案でプライバシーの侵害になる。コンピュータ化の中で情報がそこに集まってくる。その人の番号を押せばすべての情報がつかめる。どういう情報が入っているかは公開されない限り分からない。預金の残高やクレジットカードなどの個人情報もみんなそこに集められる。

 住民票がどこでも取れるとか便利な面も少々ある。だが、その便利さと引き替えに本来は知られたくない情報までそこにインプットされていく。「個人情報保護に配慮する」といっても、今までも銀行の情報がどこかに売られたりとかがあるわけだから信用できない。一回漏れだすと全部に流れる。

 それと国家権力がその情報を握っていくなかで、将来警察がそれを使い、国民のプライバシー、人権の侵害につながっていく可能性がある。そういう危険なものだと思う。

 法案ではとりあえずは、名前と住所と性別と年齢だけだが、これがどんどんふくらんでいくと思う。グリコ事件だったか、友だちが調べられたことがある。警察が彼の情報をものすごくもっていた。前科もないのにあまり他人が分からないような情報を持っていた。住民基本台帳法問題でも思うのは、きっと警察はそういうシステムを使ってボタンを押せば、容疑者みたいな人がばーっと出てきて、情報の見込み捜査をし、盗聴をしたりとかでプライバシーが侵害されていく。われわれの知らない情報がインプットされていく。

 自治体や銀行が情報を上乗せしたり、誰かが持ち出したりする。そんな社会は民主主義ではない。少なくとも戦後、平和憲法のもとで個人の人権やプライバシーを保護してきた方向と全く相反するものだ。

 日本のこれからの方向だが、ある人が「今日本が向いている方向は脱亜入G7だ」といった。だが、日本は地理的に見ても歴史的な関係からしてもアジアの一員であるということをきちんと受けとめて、アジアから信頼される、開かれた国をつくっていく必要がある。また、近隣の国と平和な関係をつくることは戦後日本が求めていかなければならないことだったと思う。

 政府の危険な動きに反対するだけでなく、民衆のレベルで、アジアとの信頼関係を構築していく。二国間関係ではなくて、多国間の信頼に基づいた関係を労働組合も、市民も、宗教者もそれぞれのレベルでつくって行くべきだと思う。アジアの民衆と信頼関係をつくりながら、軍事力によらない安全保障をつくっていく必要があると思う。


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