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新農基法で食、農を守れるか

市民フォーラム二〇〇一 佐久間 智子 事務局長に聞く




 食料・農業・農村基本法(新農業基本法)が、今国会に上程されている。本法案は、食糧安保をうたっているものの、食料自給率の目標を明示していないなど、きわめて多くの問題点を含んでいる。佐久間智子市民フォーラム二〇〇一事務局長に聞いた。


食料主権を手放すのは危険

◆市民フォーラム二〇〇一について教えて下さい。

佐久間 一九九二年にリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開かれ、環境と開発の問題が包括的に話し合われました。日本からも三百五十人が参加したんですが、その後も地球サミットを受けて、新しい運動をつくっていきたいと、国際的な問題に対応していくときの窓口、あるいは日本政府に提言するときに結集する窓口ということで、九三年に始まったのが市民フォーラム二〇〇一です。

◆新農基法では、農業の多面的機能や食料主権が言われている一方で、市場原理や規制緩和の流れを認めています。

佐久間 市場原理そのものを否定するつもりはありませんが、今はお金の計算にもとづく経済価値以外は体現できない市場になっていることが問題です。例えば水源地を守ることが生活にもたらす福利の量は、なかなか計れません。

 どんな規制をつくって市場を機能させるかということが問題で、例えば国内では独占禁止法があることで市場が守られているとすれば、世界の独禁法はどこにもありません。国際的な規制がないなかでやることが問題なのです。

 そういうなかで最も自然に依拠する度合いが高い農業が最大の犠牲になる。農業の多面的機能や持続的発展は重要ですが、前提として成り立たない仕組みになっています。

 いまの日本は一番もうかりそうな産業を後押しするという考え方でやっていますから、どうやっても、もうかりそうもない農業はそんなに守ろうとしていないのではないのでしょうか。

◆日本は米国に食料も依存しているわけですが、この現状をどう評価されますか。

佐久間 日本は米国とくっついていれば安心だとか、米国がやっていることは世界の常識だから日本もやってよい、という議論が多いですね。NGOとしていろんな国際会議に出る中で感じるのは、世界の中で米国だけが非常に変わっていて、まわりがとても困っているということです。

 食料の点でも米国の言うことを聞いていればよいということには全然なりません。モノや金の移動にくらべて、人の交流や情報の共有による相互理解や協力が遅れている中で、食料の主権を手放してしまえば非常に危険な状態に陥ることになります。

 同時に人間がバランスよく生きていくためにも産業間のバランスが大事です。農がなくなって、日本中が今の東京みたいになってよいのかという点でも、精神の健全性という面からも、反省期に来ていると思います。心・文化、環境、それと食糧安全保障、この三つが食料主権の中味だと思います。政府や産業界はすごく遅れています。

◆今後の運動方向は?

佐久間 昨年の多国間投資協定(MAI)反対の運動は、大きな成果でした。最近、経団連などが主催したWTOシンポジウムがあったんですが、外国の元貿易相は「WTOは市民社会にものすごく攻撃されている」ということをはっきり言いました。私たちが、グローバリゼーションのよい面を使って市民レベルで情報をつないで行けばすごく大きな勢力になるということが分かってきたわけです。

 最近もWTOのメーリングリストを始めたところ、すでに二百人の方に入っていただいています。とにかく現時点では、情報が力だと思っています。(資料参照)


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