秋田県 食と緑・水を守る労農市民会議 高橋 良蔵 議長に聞く
食料・農業・農村基本法(新農業基本法)が、今国会に上程されている。本法案は、食糧安保をうたっているものの、食料自給率の目標を明示していないなど、きわめて多くの問題点を含んでいる。高橋良蔵秋田県 食と緑・水を守る労農市民会議議長に聞いた。
米国に屈しない姿勢必要
◆秋田県労農市民会議の活動について教えて下さい。
高橋 結成されたのは、昭和の三〇年代で当時は、労農会議といいました。今は、「食と緑・水を守る労農市民会議」です。
新農業基本法について、最初に取り組んだのは一九九五年で、その時は新農村基本法といっていました。その制定を求めて、県を含めて七十の全自治体に採択するよう意見書を出すんです。
その理由は、例のガットの農業合意の経過がありますね。九三年の十二月に時の細川総理大臣が、三度の国会決議を踏みにじり、一夜にして自由化を決定づけました。息をつく間もなく、翌年、農政審議会が「食糧管理制度を廃止するべきだ」という報告書を出し、あっという間に新食糧法になってしまいました。
そのような苦い経験があったものですから、農業基本法の見直しに向かって農水省が動き出したという情報が入ってきた段階で、農業の現場の声というものを反映させようということで、九五年に、意見書を出したわけです。
◆新農基法が国会で審議されていますが、どうお考えですか。
高橋 今国会に提案されている基本法については、十五項目にわたって意見を出しています(資料参照)。意見が反映されている面もありますが、具体化については抽象的で、後退的なことが各所にあります。
例えば、現行農基法では、農業白書は提出が義務づけられているが、新農基法の案では、出しても出さなくてもよいようになっています。
過去何度かの農業白書では、コメを中心とする日本型食生活の問題についてかなり、踏み込んでとらえていた。日本人の健康が後退している問題について、コメを中心とする日本型食生活が後退したことが大きな原因をなしているということも明確に指摘しています。
日本の食料自給率は四一%に下がり、主食であるコメの消費も三十年間で三百六十万トン減っています。自給率を高めようという国民世論を盛り上げなければならないのに、新基本法のなかでは、白書が義務づけられていない。
新農基法では、言葉としては申し分のないところがいっぱいあるが、実行の裏付けがはっきりしていない。食料の自給率の数値目標も示さず、国の責任を逃れている。
◆対米従属という日本の外交姿勢が農業にとっても制約になっていると思いますが。
高橋 ガットの時から引き継いできている問題で、コメの関税化問題でも、来年の世界貿易機構(WTO)のなかで、欧州共同体(EU)と提携して高い関税率を守る、といっているけれども、最終的には米国の圧力に屈しない態度をもてるのか、そういう点がきわめて信用できない。
関税化は、いまはそれでいいとしても、関税引き下げを求める米国の圧力が強まってくるのは目に見えているわけで、そこが一番心配です。
◆政府を監視する国民的な運動がいっそう必要ですね。
高橋 その通りです。農水省は、基本法の問題もWTOの問題も「国民の結束が大事だ」と言うんだけれども、ガットの時と同じように一夜にして、ということにならないのか。
そもそも、一九六一年の農業基本法で約束したことが、この四十年間に何がどれほどやられたのか。基本法が制定された三カ月後、村で中央の幹部や後の構造改善局長などが顔を並べ、公開討論会をやった。発言録を今調べてみると、約束を破って何もやっていないわけです。
まして新農基法は、出来ないときの逃げ口をいっぱいつくっているように思えてならないわけです。