中尾元信さん (東京・新宿区立北山伏特別擁護老人ホーム・高齢者在宅サービスセンター事務長)
松本義久さん (鍼灸師、群馬介護保障を考える会事務局長)
松尾百合さん (東京・杉並区、もっとよく知ろう公的介護保険の会)
貧乏人は死ねというのか
自己紹介で、介護保険の問題点が出されましたが、運動の紹介と合わせて、もう少しお願いします。
松本 介護保険の狙いですが、「お金のある人がよいサービスを受けれるのが当たり前、ない人はそれなりにしか受けれなくてもしょうがない」という一万人委員会の論文がありましたが、ここに現れていると思います。
厚生省が基準にしているのは、年収八百万円の世帯で老親が二十万円〜三十万円の厚生年金をもらっている世帯です。現状の福祉では、この世帯の人が特別養護老人ホーム(特養)に入所すると月に十九万円も負担しなければならず、負担が過大なので軽減し、無年金や月三万円くらいしか収入のない人の負担が軽すぎるので、低所得者にも高所得者と同じ負担をしてもらうということです。
最近、テレビで実際のモデル事業が放映されました。それは月十万円の年金収入の世帯ですが、奥さんがご主人を看ています。ある時、奥さんがケガをしたので、ご主人の要介護申請をしたら、月二十七万円相当になり、利用料の二万七千円が払えないので、十五万円分にしてもらい、ケガが治ったら頼まないでやっていくつもりだと言っていました。
つまり保険料が高いので利用を抑制します。これが実際に起こる話です。すると低所得者、高齢者にすれば普通の所得ですが、そういう人たちは保険料だけ払い、高所得者がそういう人たちの保険料で介護を受けることになります。
松尾 介護保険について勉強してみましたが、介護保険は新しい制度を積み増すのではなく、今の介護制度をなくしてしまうことが分かりました。今の制度プラス介護保険ならまだしも、現在の福祉の制度をなくすのは大変なことだと思いました。
今、言われた利用抑制は、すでに起きて、福祉事務所で、今まで三時間利用していた人が、これからは二時間にしてほしい、などと言っています。また、供給するほうでも抑制しています。特養の申請窓口でも抑制しています。逆に住宅改造など介護保険で認められないものは、駆け込みで区に来ています。
中尾 最近、厚生省は年金が年十八万円(月一万五千円)以上あれば、保険料を年金から天引きすることを決めました。だが、低所得者層にとってはこれにたまりません。高齢者医療保険ができれば、当然、そこでも年金から天引きするでしょう。
そうまでしてお金を集めなくてはならない制度とは何ですか。銀行に六十兆円を出しているにもかかわらず。
東北のある町で共産党の市議が介護保険の講演会を行い、われわれの仲間がそういう状況を説明しました。ところが、その市議は「決まった制度を改革していきましょう」と、発言しました。すると会場から「なぜ、廃止だとか延期だとか言わないのか」と、ものすごい叫び声が上がったそうです。
このように実態が知らされていません。だから知らせれば知らせるほど、大きな反響があります。本当に実施されたとき、国民の怒りは爆発するでしょう。
運動としては自治体に訴えていくべきだと思います。区立ホームとしては、九九年度の予算編成をしなくてはなりませんが、区に問い正していかなくてはなりません。「本当にお金がない人を追い出すんですか、誰が言うんですか」と具体的な問題になっています。
自治体への運動が重要
松尾 杉並区が七、八カ所で説明会を開きましたが、区は何も答えられません。参加者は立ち見が出るほどで、質問も多くて時間が足りなかったほどでした。だが、来た人は不安を持って帰るしかありません。
町内会の役員は「こんな大事なことなら、区は町内会に説明に来い」と言っていました。すると区は「要望があればいつでも行きます」と答えたら、「要望がなくても来るべきだ」と町内会の役員は怒ってしまいました。そして「聞けば聞くほど、変な制度だ」と言っていました。
しかし、区としては介護保険が実施されればどうするかというビジョンをもち、福祉政策をきちんとすることが求められています。
松本 介護保険が実施されれば自治体は二つの傾向に分かれるでしょう。
一つは介護保険はおかしいと、何とか現在の水準を維持しようとするところと、国が全部を切ったので、自治体も責任がないと、いっさいを民間任せにするところとの二つになるでしょう。
「要介護認定」が切り捨てに使われる場合があると思います。要介護認定のいい加減さの暴露が必要だと思います。
先ほど話した万場町では、民間の特養(デイサービス併設)を誘致し、社会福祉協議会が現在行っているデイサービス事業を廃止し、職員を全員解雇する話が出ています。
中尾 民間が参入しても、サービスの質の保証はありません。資本主義的な競争を行えばサービスがよくなるというが、それは違います。社会保障は、そういう競争原理から離れたところにあったはずです。命や財産、生存などの問題があるから、公的責任で憲法に基づく生存権を守るものとして行われていたはずです。それが、いつの間にか、民間を入れましょうとなった。
凍結論議が出てきたときに自民党は「市町村の準備も進んでいるが、民間企業の参入準備も進んでいる。だから凍結はできない」と言いましたが、これが本音でしょう。そうした企業から政治献金をもらうでしょう。岡光事件と同じでしょう。しかも介護保険になれば、その構造が自治体に降りていくことになり、さまざまな利権に結びついていくことになります。
松本 都会だと民間も成り立つ基盤があるでしょうが、田舎では年金が月三万円しかないというのが普通ですから、商売としては成り立ちません。だが、特養などの施設が一番、商売としては成り立つと思います。だから特養のベッドは空いていても地元の人はお金がなくて入れない事態が起きるでしょう。
ホームヘルパーも民間が参入するとどうでしょうか。介護報酬では成り立たないので、お金持ち相手に一時間に二千円くらい上乗せして、そうした金額でないとできないと思います。厚生省はそれを肯定も否定していないが、そうした金額でないと事業としては成り立ちません。一般の利用料プラス差額を払わないと、利用できないということになります。現在の医療保険でも鍼灸の場合はそうなっています。
そうなれば、民間まかせではなく、公費で差額を補てんするなり、公営で差額を取らずにやるということにならないと、ホームヘルパー事業は消えていってしまうと思います。自治体が補てんしてでもやるとならないと介護がなくなってしまいます。
中尾 今、企業がどう考えているかですが。たとえば、二十四時間ホームヘルパーは民間がすごい勢いで参入していますが、今は採算を度外視しています。そして家庭の資産調査をしています。企業は福祉の心でやっているわけではなく、もうけるためにやっていますから、この家の資産はこうだから、次にはこういうものを買わせようとなります。ホームヘルパーから「今度、こういうよいものができたの」と言われれば、むげには断われない。しかも利用者にとって必要かどうか判断できない。企業が善意の理論で商売することなどありえません。
政党は連携を広げる役割を
今年の抱負などについてお聞かせください。
中尾 今年は統一地方選挙だが、候補者に介護保険ができたらどうするのか聞いてみたい。具体的に「お金のない老人を施設から追い出すのか」と聞いて公表したい。選挙でも争点にさせ、問題点を訴え続けていくことが必要だと思う。
そのために、現場からもっと声を上げていく準備を進めています。いずれにしてもまずは知ってもらうことです。
しかし、みな仕事をしながらなので、実際には大変です。旗振り役をどう組織していくのかが大事になります。いかに横のつながりをつくるか、現場や労働組合、利用者などがいかに一つの力に結集していくのかが大きな課題です。本当に賢い政党はそこに目をつけてやるはずですが、どこも目をつけていません。
具体的に福祉サービスを後退させないために、どのように力を合わせていくかが今年の課題です。
松尾 私たちも区議候補全員にアンケートをしようと話し合っています。できたら東京全部でやりたい。
国会に行ったときに、どこに行けばよいか悩みました。共産党は、できたから制度を充実させようと、言っています。これまで措置制度を守れと言っていたのに。これは許せない。
市民自身が賢くならなくてはなりません。そして、今後も対自治体への運動を発展させたい。
松本 ある意味では追風になっています。介護保険の内容がだんだん明らかになるほど、問題点がぼろぼろ出ています。実際の内容がどうなるか明らかになり、これではだめだという声が強まっています。
総会では全国町村会の会長さんに記念講演をしてもらったが、今までさんざん苦労してきたお年寄り、特に私の村では農林業が主要産業なので、年金もろくにもらっていない、そういうお年寄りから保険料を強制的に取るなんて酷なことができますか、と言っていた。
あちこちで問題点をさらに明らかにしていきたい。やれば、運動として成立すると思うので、旗振り役が重要になります。労働党にもがんばってほしい。
会としては、国への要望を出したが、それだけでなく県下すべての各市町村に要望を支持してほしいと訴えています。また全議会への陳情なども準備しています。三月から六月にかけて条例案が審議されるので、自治体独自の対策を取ってほしいという要望を出して行きます。
また、今後ホームヘルパーさんの首切りなども出てくると思うので、労働組合の役割が大きいと思います。実際の被害がこれから出てくるので、もっといろいろな運動がやれるのではないかと思います。
本日はどうもありがとうございました。