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「政治をこきおろすつもりはないんですが、そうなっちゃうんです」

お笑いで社会にインパクト

ザ・ニュースペーパー 渡部又兵衛さんに聞く




 ザ・ニュースペーパーは、政治風刺を中心に活躍する日本で唯一のお笑いグループ。国民の政治不信がますます高まる中、幅広い年齢層の支持をうけて、きょうも意気軒昂(けんこう)だ。中心メンバーの一人である渡部又兵衛氏に、最近の公演活動などを聞いた。


 一九八八年に天皇重病ということで、歌舞音曲が自粛となり、お笑いの仕事が激減したんです。そこで、何かライブをやりたいということで、三つのお笑いコントグループが集まり、ザ・ニュースペーパーをつくったんです。日々のニュースというのは、お笑いの原点ですよね。ニュースを、庶民の目というか、自分たちの立場で笑ってしまおうと思ったんです。

 現在のメンバーは男八人です。舞台中心の公演で、全国を回っています。労働組合、企業、生協、政党など、いろいろなところから依頼がきます。呼んでいただければ、右だろうと、左だろうと、真ん中だろうと、どこへでも行きます。

 東京・博品館劇場の年末公演が終わったばかりですが、今回は、各党の若手の政治家に日替りで出演してもらいました。若いからまだ生臭さがないというか、率直な部分があります。政治家はだいたいタヌキですけどね(笑い)。

 お客さんの反応は、予想以上によかった。政治家がびっくりするんです。政治にこんなに関心があったのかって。細かな点まで笑ってくれる。政治を知らないと笑えないですよ。この点では、お客さんをほめてあげたいね。

■コントで「自自連立」

 最近取り上げたテーマは、自自連立、カレーのヒ素混入事件、環境ホルモンなど。自自連立は、こんなコントにしました。

 政局を日の本銀座商店街になぞらえまして、ここの商店街のまわりに大型店ができて、商店街がどんどん廃れてきている。商店街を仕切っているのは自民一派というグループで、洋菓子店風見鶏とか、テーラー橋龍とか、宮沢書店とかあって、その町内会長に選ばれたのが、ステーキハウスどん牛の主人、小渕恵三。その町内会長室で話が始まるわけです。

 そこで景気をよくするにはどうしたらいいかというんで、仏具屋公明の浜四津代表代行が、すばらしいアイデアを持って会長室に来る。そこへ、ほおかぶりした菅さんが、「ちょっといまマスコミから逃げているから」と言って裏口から入ってくる。モデルガンショップ・フリーの小沢さんがやってくる。野中副会長が来て、自自連立の話をする…といった具合です。

 お客さんは十代から八十代まで幅が広い。三十代、四十代の男性も結構いる。笑ったあとに拍手が起こると最高です。僕たちが思っていることを、お客さんも思っているんですね。政治をこきおろすつもりはないんですが、そうなっちゃうんです(笑い)。

■特徴がないのが特徴

 脚本はみんなで相談しながらつくります。一回やったらネタはそれで終わりですから、完成度より鮮度が重要。最近はニュースが多く、ネタに困らないし、現実のニュースのほうがおもしろいということもいっぱいありますね。

 政治風刺のむずかしいところは、特徴ある政治家がいなくなってきたってことかな。昔は、田中角栄とかがいた。菅さんや小渕首相にしても、特徴がないのが特徴。

 おまけに、国民がますます政治離れしているのに、次から次へと政党が変わる。あっちと組んだりこっちと組んだり、政党の名前もどんどん変わる。コントでは、それをまず最初に説明しなくちゃいけない。お客さんがどこまで知っているのか、そこがむずかしいね。

 それに、国会での政党自体の特色がなくなってきた。どこの政党も同じなんですよ。違うのは、共産党ぐらいですが、そうかといって政治を動かすほどの力はないからね。菅さんのところだってどうしたいのか、政策がぴんとこない。結局、みんな一緒に見えちゃう。

■タブーへの挑戦

 僕たちがテレビ番組に出演すると、政治的な発言はカットされてしまう。政治家の名前を変えろとまで言われたことがある。テレビ局はスポンサーとのからみもあるし、自分のクビも大事だから自主規制もしている。最近はテレビからお声がかからなくなってきましたね。

 テレビで言えないことって多いですよ。たとえば、防衛庁とNECのゆ着。これは政治家もからんだ典型的な汚職です。僕たちは狂言でやりました。あれはテレビでは、絶対に企画できないでしょうね。

 それに、僕たちは「さる高貴なご一家」もやっています。以前は、右翼がいつ来るだろうかって、ドキドキしてやっていたんですよ。いまはそれがない。皇室の存在自体が希薄になってきたんじゃないかと思います。はりあいがないね(笑い)。地方公演では、「なんだこれは笑っていいのか」っていう一瞬があって、それがプチンと切れた瞬間、すごい笑いですよ。

 おかしなもので笑いというのはタブーがないと、おもしろくないんですね。たとえば韓国なんかでも、厳しい時代があったじゃないですか。ああいう時代には、いいコメディができるんですよね。

 社会にインパクトを与える笑いを提供したいね。ニュースを取り上げるということは、必然的にそうなる。人間が喜んだり、悲しんだりしている日々の生活の中にニュースがあるわけですから。

 それから、政治家も悪いんですが、それを選んだほうの質も問われていると思うんです。つまり、こういう政治を選んだ有権者も笑っちゃおうということ。僕たちは全部敵にまわしている。これでは、道も歩けないね(笑い)。

プロフィール

 わたべ またべえ

 一九五〇年、北海道小樽生まれ。日本テレビ「お笑いスター誕生」で優勝、NHK第二回新人演芸コンクールで最優秀賞獲得。迫真の演技を笑いに結びつける貴重な俳優として、注目されている。


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