介護保険新春座談会（上）

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これでいいのか介護保険

新春座談会（上）

　政府は、二〇〇〇年四月から公的介護保険の導入を強行しようといる。これまで税金でまかなっていた措置制度をなくし、保険料と一割負担を押しつけるという攻撃である。全国町村会が政府へ要望を出したのをはじめ、福祉・医療現場や住民の反対運動が広がっている。社会福祉現場、地域医療にたずさわる方や福祉を受ける側の方に集まっていただき、新春座談会を開催した。

中尾元信さん　（東京・新宿区立北山伏特別擁護老人ホーム・高齢者在宅サービスセンター事務長）

松本義久さん　（鍼灸師、群馬介護保障を考える会事務局長）

松尾百合さん　（東京・杉並区、もっとよく知ろう公的介護保険の会）

―新年あけましておめでとうございます。

　さて、本日の座談会は公的介護保険に反対している皆さんの運動を紹介させていただき、公的介護保険反対の世論を大きくする上で、その一助になればとの趣旨でもちました。

　では、自己紹介とあわせて、介護保険についてどうみておられるか、その辺からお話しください。

中尾　新年おめでとうございます。

　一昨年に厚生省の岡光事件が起きましたが、以前の施設長が岡光の上司だったことで、厚生省は何をしているのかと思いました。その施設長が退職する直前に介護保険について教えてもらい、介護保険の問題点が分かりました。

そして岡光事件をきっかけに、施設長たちが介護保険と社会保障を考えようと、「現場から公的介護保険を考える会」ができ、それを手伝っているうちに事務局長になってしまいました。現場から公的介護保険を考える会は、福祉サイドとしてどうすべきかを議論しています。

　運動を続けているなかで昨年三月、税金を払う国民や保険料を支払う一般利用者にも知ってほしい、それぞれの立場で考えてほしいということで、各方面の方と協力してシンポジウムを開きました。それをきっかけに「介護保障を考える市民の会」をつくり、毎月勉強会を開いています。

これまで福祉の現場、施設長からはほとんど声があがりませんでしたが、昨年八月、意識ある施設長が全国の四千以上の老人福祉施設すべてにアンケート調査を行いました。その趣旨は、①二〇〇〇年四月実施を延期してほしい、②基盤整備を先に進めてほしい、③国民的論議をすべきだ、ということです。そして千以上の施設長から回答がありました。

　施設長はお上（かみ）から補助金をもらっている意識が強く、お上に逆らわない体質が強いので、四分の一の方が声をあげたのは大事です。そうした声を中心にして、全国の施設、現場サイドの声をあげていこうとしています。

松本　あけましておめどうございます。

　私は昨年十二月十三日に結成したばかりの「群馬介護保障を考える会」の事務局長をしています。

　私は、母親がガンの時に在宅でみとりました。そこからホスピスや介護保障などを考えるようになりました。

　群馬県万場町に赴任した医師からの誘いで、その診療所に週一回行っています。そこで高齢者への訪問リハビリ、鍼灸などをしています。

　また、長野県武石村に見学に行きましたが、武石村は在宅死の比率が約七割ということで、かなり福祉に力を入れています。人口二千七百人の村で地元の診療所の女性が、二百数十人の老人を組織し「すこやかクラブ」をつくっています。会は四年前に集会を持ち、デイサービスを実施させています。

　武石村は高齢化率四割で、一人暮しの高齢者が全世帯の一割を超えています。一人暮しでがんばっていても、具合いが悪くなると一人で住んでいられません。それでも、お年寄りの方々はデイサービスなどを利用しながらがんばっています。

　公的介護保険が導入されれば、そうした人びとがどうなるだろうか、という思いがあります。相当厳しいだろうなと思い、三年くらい前にいろいろな人に働きかけてみました。だが、介護保険賛成の声が強く、なかなか運動になりませんでした。

　労働新聞で一昨年五月に、「現場から公的介護保険を考える会」の記事をみて、会に連絡して講師の方に来てもらい「ちょっと待った介護保険」という集会を実現しました。多くの方々が集まり、そこから運動が始まりました。

過疎地、高齢化率の高いところでは、もろに問題が出てきます。たとえばデイサービスを受けている人の七、八割が自分だけでは起きられません。それに代わるものがあるかといえば、介護保険では保険福祉事業になりますが、それは六十五歳以上の人の保険料でしか、まかなえないので、事実上できません。そうした問題が大きくあります。

松尾　新年おめでとうございます。

　杉並区で、もっとよく知ろう公的介護保険の会をやっています。一昨年の夏頃に介護保険がこのまま通ったら大変だといって、特養の元施設長や福祉事務所の職員、ボランティアの方々が、現場から公的介護保険を考える会の方に来ていただいて勉強会を行いました。

　そして公的介護保険を通してはならないと、運動を続けてきましたが、国会で審議なしに通ってしまいました。こんなに問題があるのに、問題点を国民に知らせないで通過させるのは何かと思いました。

　とにかく、介護保険の中身をよく知ろう、どうしたら、私たちが求める福祉が実現できるのかを考えようと、できることは何でもしてきました。

　一昨年十二月に参議院を通過しそうになった時は、これは国会へ行くしかないと、みんなで要望書と賛同人を募り、国会に行きました。その三日後に通過しましたが…。

　通過したのでどうしようかとなり、実施主体である区に訴えていこうということで運動を続けています。

お年寄りを不幸にするもの

中尾　昨年十二月七日に全国関係者会議を開き、十日には厚生省交渉を行いました。これが現場サイドとしては初めての厚生省交渉でした。

介護保険は、問題点山積で何のメリットもありません。老人ホームをあずかる現場の人間としてメリットは感じられません。家族の方々が今までの負担分が減るとかはあるのでしょうが、そういう問題以前にお年寄りが幸せになるかといえば、恐らくならないと思います。

　現状は、こうしたことが何も理解されないうちに法案が通ってしまった。ともかく問題があってもやっていこうという考え方は許されない。なぜなら、お年寄りの生活や命にかかわる問題を一番背負わされるのは高齢者そのものだからです。それを抱えている自治体も問題を抱えることになります。

　何十年も議論をして導入したドイツでさえ、問題点を抱えています。とにかく待てないということで、実施することが本当によいことなのでしょうか。

　昨年の厚生省交渉で、私は交渉の最後に「この法案が予定通り実施されたら、夜道を歩けなくなるのではないですか」と言ったら、向こうも「多分そうなるでしょう」と言っていました。

　だが、高齢者は理不尽な法律に怒りをぶつける気力や体力がないし、情報も届きません。ましてベットで寝ている痴呆の人びとが本当に声をあげれるはずもありません。

　私たちには、具体的に「老人ホームから出てください」と言わざるを得ない日が近づいています。厚生省は、「要介護認定で自立と判断された人たちをむげに追い出すことはしない」と言うが、実際には措置制度による補助金が出ないのだから経営が成り立たず「出てください」と言わざるを得ません。

　今、ようやく特養ホームにたとどりつき、ほっとして葬式代だけ残して安心している人たちに、誰が「出てください」と言うのでしょうか。また、出ろと言われたお年寄りはどうなるでしょうか。

　精神的な混乱が出るだろうし、下手をすると行くところがないので死にましょうということになります。そうなった場合、だれが責任を取るのでしょうか。厚生省は「制度が変わったのでしょうがないではすまされません」。

　お年寄りを幸せにするためにつくられるべき法案が、実はお年寄りを不幸にしているという現場の意見を、なぜ厚生省は聞かないのでしょうか。

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