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大店法規制緩和問題 

環境破壊、町づくりを阻害する

大型店に立地規制は当然

伊藤公一・千葉商科大学教授に聞く


  通産相の諮問機関である産業構造審議会流通部会と中小企業政策審議会の合同会議は、年内に大規模小売店舗法(大店法)見直しの報告書を作成するが、規制緩和どころか大店法撤廃の方向で進んでいる。これまでに三回行われた大店法の規制緩和によって、多くの中小小売商が倒産・廃業に追い込まれ、全国の商店街の三分の一が歯抜け状態になっている。こうした橋本政権の「改革」攻撃に中小小売商団体をはじめ、自治体などでも大店法の規制強化を求める声が高まっている。千葉商科大学の伊藤公一教授に聞いた。



 大店法見直しの最終報告が年内につくられるということで、大店法の規制緩和問題は大詰めを迎えている。産業構造審議会の学識経験者は、規制緩和を大前提として主張を展開している。彼らは市場経済信奉者であり、経済的規制をできるだけ緩和しようとしている。
 大店法は店舗面積、閉店時間、休業日数の三点で調整するもので、まさに経済的規制だ。市場経済信奉者は当然、規制緩和どころか大店法を撤廃していこうとしている。
 現在の大店法には、立地規制の規定がなく、このまま緩和されれば、中小小売商が今まで以上の打撃を受けるのは間違いない。大型店ができれば、お客さんはそちらに行ってしまう。そうなれば残るのは、大型店が真似のできない専門店かコンビニ、近隣の小さなスーパーぐらいだろう。あるいは、フランチャイズ化で大手の支配下に入るかだ。
 さらに外資系の大型店が続々進出してくるのは必至だ。なぜなら、欧米では大型店の立地規制が最近とみに厳しくなっているので、大店法が規制緩和され立地規制のない日本に進出することに魅力がある。日本を橋頭堡(ほ)にして、そこからアジア、中国に進出していく。

大型店には社会的規制が必要

 経済的規制以外に大型店を規制する社会的規制が必要だが、これには十分論拠がある。企業活動を自由にさせれば経済問題以外にも弊害が発生する場合がある。それを「外部不経済性」と呼んでいる。その典型は公害であり、社会に悪影響をもたらすので当然規制が必要だ。
 大型店が存在することで外部不経済性を発生させることは多い。まず消費者は車を利用して行くので交通渋滞、排気ガス問題がある。大型店の空調による排ガスもある。郊外に建てられる場合が多いので環境破壊や景観の破壊もある。したがって、公害型企業と同じように立地で規制すべきである。
 欧米では、地域に暮らす、すべての人びとの生活環境を問題にする。排気ガスなどの公害がなく静かな環境で生活するという、暮らしの利便性が問題にされている。大型店が都市の中心部に存在することも悪影響を与えるとみなされる。だから大型店は、悪影響が及ばないところにしか立地させない。
 大店法の規制緩和は、消費者に便宜を与える、買物の便利さを与えるとされている。しかしこれは、消費者の視点であって生活者の環境重視の視点ではない。

自治体、住民が大型店を規制する欧米

 欧米では大型店の立地規制が進んでおり、ドイツ、イギリスがいちばん厳しい。フランスはさらに規模による規制も加えている。大型店進出は、失業問題にかかわるので、立地規制に加えて、規模による規制が行われているのである。さらにベルギーでも大型店を規制しているし、スペイン、ポルトガルも大型店の規制を始めた。
 九二年のリオ・サミット以来、ドイツ、イギリスを中心に環境問題への意識が高まり、この方面から大型店の規制が強められている。大型店の進出に排気ガス、特に二酸化炭素の面から厳しい規制がある。
 米国は、日本の大店法批判の急先鋒だが、当の米国は立地規制を厳しく行っている。商業地域を細分化し、ここは大型店、そこは小型店だけと細かく規制している。
 これら欧米の特徴は、都市計画の権限が市町村にあり、都市計画に住民参加が義務づけられていることだ。だから市町村の独自の判断でいくらでも立地規制ができる。すなわち住民の意思で都市計画も大型店の立地規制もできるということだ。

町づくりに不可欠な商店街

 政府は、大店法の規制緩和反対の声を抑え、その見返りに中心市街地活性化法案をつくり、四百億円の予算を計上した。大規模な国の資金を用意し、市街地に駐車場をつくり、街路樹を植え、大型店を呼んで町の活性化をはかるという。しかし、いかに金をつぎ込んでも大型店は、地価の高い中心市街地にわざわざ進出しないだろう。今は大型店が町の中心地から逃げ、町の空洞化が問題になっている。仮に中心市街地に来ても売り上げなどをみながら、出て行くかもしれない。大蔵省幹部が、法案はゼネコン救済で建設業者を喜ばせるだけだと発言しているように、町の活性化のためのものではない。
 町づくりからみると商店街は町を構成する重要な要素である。住民からすれば、町の中心に商店街があり、ショッピングやレジャーに役立ち、人の交流もあり、文化施設などがそろっていることが暮らしやすさの一つの要件であろう。そのように町が暮らしやすくなれば、住民が本当に自分の町だと自覚し、町が活性化するだろう。そのためにも町づくりに商店街は欠かせない。
 だが大型店の進出に立地規制がなければ、町づくりは非常に難しくなる。大型店が勝手に進出してくれば、すでに述べたようにさまざまな外部不経済性が発生するだろう。
 これからの町づくりの基本は、住民がマスタープランを官と協力してつくることだ。まだ民間非営利団体(NPO)が発達していないが、町づくりのためには、住民団体と行政の議論が重要になるだろう。
 大店法の規制緩和問題も、二十一世紀の町づくり、魅力ある商店街をどうつくるのか、という議論の出発点にすべきだ。欧米の真似をするだけではだめだが、都市計画や立地規制など、自治体の権限についても地方分権と併せて考えるべきだろう。

いとう こういち

 一九四〇年生まれ。六三年一橋大学卒、米ミシガン大学大学院に留学。七八年千葉商科大学助教授、八五年より現職。専門は、中小企業論、商業政策。日本中小企業学会常任理事、千葉県大規模小売店舗審議会委員などを務める。


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