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 軍事同盟強化の新ガイドライン反対

 平和願う宗教者として

島田麗子・日本YWCA会長に聞く


 新たに策定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)に対し、国内外から反対と警戒の声がわき起こっている。先に報道したように九月二十五日学者・文化人など十四氏が「新ガイドライン反対の声をあげよう」と共同アピールを発した。新ガイドラインや有事法制に反対するためには、各界の幅広い連携による運動がますます重要になっている。前記のアピール呼びかけ人の一人である島田麗子・日本キリスト教女子青年会(YWCA)会長に聞いた。 


 YWCAは重要な活動として、非戦・軍縮・核兵器廃絶運動を行っており、憲法第九条を本当に大切にしていきたいと考えている。私たちは、世界中が武力を放棄するのが理想の姿だと思っている。
 新ガイドラインは日米軍事同盟強化であり、米軍の軍事行動に日本が積極的にかかわる立場になる。これまでの「専守防衛」を超えて、周辺有事に協力することになる。政府は、憲法の範囲内でといっているが、これは明らかに憲法違反だと思う。
 まして今年は、憲法施行五十年でありながら、日本全土が米軍基地にされるような状況になっていく。米国の世界戦略に組み込まれていくが、なぜ私たちが巻き込まれなければならないのか納得できない。
 しかも、日米両政府の合意によってまとめられたもので、国民の知らないところで、日本の進路が決められているのは非常に問題だ。
 私たちは、こうした状況を阻止するために頑張りたい。

アジアと新たな関係築け

 また、アジア諸国との問題も重要だ。日本政府は、本当のところはアジア諸国に対して侵略した事実を認めておらず、戦争責任を取っていない。そして謝罪も補償もしていない。従軍慰安婦問題、強制連行などいっさい責任を取ろうとしていない。
 しかも歴代閣僚は平然と「侵略賛美」の暴言を吐くし、橋本首相は靖国神社公式参拝などを行う「確信犯」である。それがアジア諸国の大きな不信感をかっている。それにブレーキをかけられないことに歯がゆさと責任を感じる。
 私たちは特に韓国との関係が深いが、いつも恥ずかしい思いをしている。政府は、従軍慰安婦問題などで口では謝罪はしているが、態度では示していない。「アジア女性基金」にしても、韓国の女性たちは名誉にかけて受け取れないと拒否している。
 日本はアジア諸国と関係が深く、政府は、アジア諸国に誠実な対処を行い新しい関係を築く時だ。共に生きようとする時に、新ガイドラインは重大な妨げになる。
 そうすべき時に、日米安保、周辺有事などといって「アジア有事」で米軍に協力してアジアに出ていくことは、アジア諸国から大きな不信を招くことになる。

平和求め女性の連携を

 今後、有事法制定の動きが出てくるだろうが、日本YWCAとして十月十三日に橋本首相に有事法制の整備を行わないよう要望書を提出した。
 新ガイドラインによって、日米安保が変貌(へんぼう)していることが、国民に知らされていない。新聞などでは港湾や空港が米軍に使用されると出ているが、なかなか実感がわかないのではないか。やはり、新ガイドラインについて多くの国民、特に女性たちに知ってもらう努力が必要だと思う。
 そこでYWCAとしては、世論を喚起することが大事だと考えている。私たちは全国から集まって憲法研究会を毎年行っているが、当然そこでも新ガイドラインが問題になるだろう。また、各地で学習会などを行って、実態を広く知らせていきたい。
 YWCAは世界的組織であり、米国にも多くの仲間がいるので、米国に対しても働きかけていけるのではないかと考えている。米国には英国国教会の流れで「聖公会」という団体があるが、最近米国の原爆投下についての謝罪決議を行い、大きな反響を呼んだ。
 国境を超えてお互いに手を携えていくことが大事だ。こうした努力が新ガイドラインを廃止していく運動の強化になればよいと思う。世界の女性の思いは共通している。新ガイドラインをなくすために女性が頑張らなければならないと思っている。



YWCA・人間の尊厳を守り、平和と正義のために活動し、青少年育成、女性の社会的責任の自覚と遂行を目指す。会員は約六千人。各国が集まり、世界YWCAを構成する。


YWCAが橋本首相へ有事法制反対の要望書
 

 日本国憲法第9条を尊重し、有事法制の整備を行わないこと。

 私たち日本YWCAは、第2次世界大戦の反省から、武力によらない世界平和の達成を願い、非戦・軍縮・核兵器廃絶の運動を続けてきました。
 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」見直しの最終報告が発表されましたが、その内容は平和憲法の枠を大きく外れたものであり、また国民の意思を問うことなくこのような有事体制が盛り込まれていることに、私たちは強い危機感を覚えます。
 新しいガイドラインは、日本が米国主導の世界戦略に同盟国として全面的に協力することの宣言であると考えます。ここには、範囲に限定のない「周辺地域」への自衛隊派遣や、米軍による民間空港・港湾の使用などが列挙されていますが、これは攻撃目標となることに他ならず、決してこの国に住むすべての人を守るものとは言えません。
 憲法を尊重し擁護する義務を負う首相が、憲法前文および第9条の精神に反する軍事同盟体制を推し進めることは許されません。戦後52年間平和憲法の下で国民の間に根付いた戦争放棄・武力放棄の原則を守り、これに抵触する有事立法の法制化など行わないよう強く要望します。

1997年10月13日

     日本キリスト教女子青年会(日本YWCA) 会長  島田 麗子


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