970825


米UPS労組 18万人が15日間のストライキ

労働コスト削減に反撃−−米経済界の流れに抗し勝利

日本女子大教授・秋元 樹氏に聞く


 米国の小荷物輸送の最大手、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の労働組合(チームスターズ加盟)は八月四日から十五日間ストライキを闘い抜いた。労資は十九日、組合側の主張を大幅に取り入れた労働協約締結で合意した。こんにち、米国経済は好調といわれるが、その恩恵に浴しているのは極一部の富裕層に限られ、国内の貧富の差は拡大し続けている。とりわけ労働者は、労働コスト削減のための大リストラに苦しめられている。全労働者の二割以上がパート労働者で占められているように、不安定雇用も拡大している。UPSでも六割がパートであり、会社は空前の利益をあげながら、さらなるパート増員さえ会社は要求していた。今回の闘争は労働コスト削減、リストラを続ける米経済界に対する労働者の反撃の始まりを意味するもので、米国労働運動の大きな転機となる可能性を秘めている。


 今回の暫定合意(別表)だが、会社側が押さえ込まれた、とみてよい。まずパートタイム社員のうち一万人を正社員にすることだが、かなりな成果だろう。そもそも会社側は、これまでの協約が切れる七月に、もっとパートタイムを増やすと主張していた。

 パートタイムの時給については、四ドル十セントの賃上げが合意され。パートの時給は、初任給で八〜九ドル、平均時給は十・五ドルだ。またパートについては何年も賃上げがなかったはずだ。そこで四ドル十セントの賃上げは約五〇%の賃上げになる。かなりの率だ。

 外注問題、年金基金についても会社側提案を退けている。

パート、派遣の流れに異議

 米国では一八%から二五%の労働者がパートや派遣などの非正規社員になっている。日本でもこれにならおうとする動きがある。UPSの闘いは、その米国流の大きな流れに異議を唱え、勝利したことが最大の意義である。

 今回の闘争について、彼らは「UPSのためだけでなく、チームスターズ百四十万人組合員にかかわる問題であり、全労働者の問題である」と宣言し、闘争に入った。

パートでは食えず仕事は2つ以上

 この闘いの背景だが、米国の労働者の実質賃金、日本でいえば可処分所得になるようなものは、この二十年間上がっていない。パート労働者は一九八二年頃から賃上げがされていない。

 米国産業が調子がよいといわれるが、それは、労働コストが低いこと、リストラが推進されたことによる。法曹界からパートにしてもこれでよいのかという意見が出されたほどである。

 今回の闘争で、パートのフルタイム化については、組合の調査でパート組合員の九〇%が支持し、正社員組合員の七五%が支持している。パートの多くは好きでパートをしているのではない。多くのパートは一つの仕事では食えないので、ほとんど二つ以上仕事をしている。

弱肉強食の社会構造に大きな衝撃

 米国の非正社員による労働コストの削減、リストラという大きな流れを止めるには、あと一つ二つのインパクトある闘いが必要だと思う。

 ただ数年前には米国労働運動は、労資協調でどうしようもないといわれてきた。それが今回は四十年ぶりの闘いが起こった。それは、あまりにも労働者の状態が深刻でやむにやまれず立ち上がったということだ。現場には相当な不満があることを示している。

 二年前の世論調査では、組合の主張を支持する国民の声が増えている。今回のUPSのストライキに対しても支持が高かった。こうしたことから、米国社会も転換期にきているといえるかもしれない。


暫定合意の骨子

・パートタイム社員のうち1万人を正社員として雇用する。
・正社員の時給を段階的に計3ドル10セント引き上げ総額23ドル以上、パート社員は4ドル10セント引き上げ15ドル以上とする。
・チームスターズの年金基金からUPS退職者向けの基金の切り離しという会社側の案は実施しない。
・雇用機会の外部流出につながるサブコントラクト(外注)の実施は、クリスマスなどピーク時に限定する。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997