970725


カンボジア自衛隊機派遣

邦人救出は派兵の口実

元航空自衛隊教官・不戦兵士の会 信太正道氏に聞く


 政府がカンボジアの邦人救出に備えるとタイに派遣した自衛隊機は十七日に撤収した。今回の自衛隊機派遣に中国をはじめアジア諸国からは「海外派兵の既成事実づくり」「ガイドラインの見直しのデモンストレーション」などと批判が相ついだ。しかし、橋本首相は「自衛艦の方が大量に運べる」と自衛艦派遣を主張している。元航空自衛隊教官(戦闘機操縦教官)で不戦兵士の会の信太正道氏に聞いた。


 わが国政府は、湾岸戦争終了後に機雷掃海のためとして自衛隊をコソコソと派遣した。

 その後、自衛隊法の改正が行われた。自衛隊派遣については、(1)安全の確認、(2)相手側の要請、(3)航空管制はきちんと守る、などの条件をつけた上に、相手国側には決して迷惑をかけないと口をすっぱくして主張してきた。

 今回のカンボジアへの自衛隊機派遣は、邦人救出の準備という自衛隊法にない行為である。だが、自衛隊法違反が一番大きな問題ではない。橋本首相にとって今回の教訓は「派遣が遅すぎた」ということだろう。これから政府は、「自衛隊は何をモタモタしているんだ」という世論づくりを必ずやると思う。

日中戦争も邦人救出で世論操作

 かつて上海事変は、日本の僧侶が殺されたことから始まった。実は、軍が金を出して中国人に僧侶を殺させたのだが、上海にいた日本人は、危ないと日本公使館に逃げ込んだ。そして国内では「日本人を救え」との侵略のための世論操作が行われ、そして日本軍が出ていった。その後、日本は日中戦争のドロ沼に入っていって、第二次大戦にまでつながっている。

 軍隊の将校学校は、何も武器の操作だけを教えるのではなく、どうやってばれないように世論操作を行うかも教える。

国会は無力 運動が重要

 憲法問題だが、九条は重要ではないという意見もある。しかし、現憲法下では、機雷掃海でさえ相手国の了解なしにはできない。支配層のなかの改憲派にすれば、憲法は大きな壁である。

 だから護憲運動は大事で、ガイドライン見直しなどの危険な動きは許してはならない。今回の自衛隊機カンボジア派遣もガイドライン見直しを先取りしたものである。

 自衛隊は、核兵器以外は世界の最高水準の兵器を持っている。だが、大事なものが抜けている。それは自衛隊への国民の支援がないことだ。だから「海外邦人救出」を言って、自衛隊への国民の支援を集めようとしている。

 政府は、自衛隊法改正であれほど低姿勢だったが、橋本首相は、危険な場合は自衛隊は出さないという条件についても、「危険だから自衛隊がいくのだ」と開き直っている。

 一度法律ができれば、あとは政府に都合よく改正ができる。しかも今の国会には、反対勢力はほとんど存在しない。だからこそ自衛隊派兵に反対する国民運動を強めなくてはならない。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997