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一貫性ない日本のアジア外交

共生の明確な意思示せ

拓殖大学国際事情研究所助教授・吉野文雄氏に聞く


 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、今年結成三十年を迎えた。急速な経済発展によるひずみやドルと連動した通貨制度の弱点で、当面一定の調整期は避けられないものの、二十一世紀に向けた成長センターとしての潜在力は引き続き巨大なものがある。国際政治での発言力も拡大している。この地域、諸国との真の共生は、わが国の進路にとっても重大事である。ASEAN事情に詳しい、拓殖大学国際事情研究所助教授の吉野文雄氏に、日本のアジア外交の問題点などを聞いた。


 ASEANは二十一世紀になっても七〜一〇%の経済成長を続け、アジア全体も発展するのではないかといわれている。

 しかし、ASEAN各国とも、今世紀中は調整期間となるだろう。例えば、タイでバブルがはじけ、経済成長の伸び率が低くなった。それがマレーシアに波及することも考えられる。また政治的にも、九八年にスハルト・インドネシア大統領が引退する。フィリピンのラモス大統領も再選はできない。九九年にはマハティール首相が引退する。政治面でも調整期に入らざるをえないだろう。

 こうしたことはあるが、全体としてアジアはうまくいくとみられている。それは、中国がアジア経済を引っ張るからだ。七月一日に香港が中国に返還されたが、中国はこれまで経済発展が著しい上に、さらに香港という経済的に強力な地域が加わり、一段と発展するだろう。人口五億人となるASEANが、中国にぶらさがっていくことになる。

 政治面ではASEANは、欧米が反対するミャンマーのASEAN加盟を押し切った。国際社会での発言力が強まっている。昨年、アジア欧州首脳会議(ASEM)が開かれたが、このような国際会議が米国抜きで開かれたことの意味は大きい。またASEMに参加したアジア側は、ASEANプラス日、中、韓であった。これはマハティール・マレーシア首相の提唱した東アジア経済協議体(EAEC)構想のメンバーそのもので、アジアとしての意義は大きいのではないか。

 アジアの時代といわれるなか、日本がアジアとどのようにつきあうかだが。橋本首相は今年一月、ASEAN各国を歴訪したが、その際にASEAN首脳と日本の定期協議を要請した。マハティール首相が以前に六カ国が集まるので協議に来てほしいと要請されたのは断わりながら、今度はASEAN十カ国を集めろなどとはとんでもない話だ。

 日本の対ASEAN輸出はどんどん上昇しているが、逆にASEANの対日輸出は低下している。この十年で四分の一から六分の一ほど減っている。その理由は、中国という市場が出てきたのも一つだが、それ以上に日本という市場が魅力的でなくなったということだ。またASEANが日本にだけ売るものから世界に売れるものを生産できるようになったこともある。日本はまずこの事実を知るべきだ。

 そして日本が本当にアジアと共生する気があるなら、まず「心意気」をアジアに示すべきである。

 例えば、アジアにたくさんの企業が進出しているが、現地の人が一生懸命働いてもせいぜい工場長どまりだ。資本出資の関係で名目上の現地人の社長はいるかもしれないが、実際の社長はいない。ところが欧米企業はアジアに進出し、成績があがれば現地人を社長などに抜てきしている。これでは本当に『日本はアジアのカヤの外』になってしまう。

 日本企業がアジアを金もうけだけでみていると本当にアジアと共生はできないだろう。また政府のアジア外交も改めるべきだ。少なくとも一貫した外交政策を取るべきだ。

 日本が、九〇年にマハティールが提唱した東アジア経済グループ(EAEG・その後EAECに変化)構想を受ければ評価を高めたろう。だが、政府はちゅうちょして米国と相談し、受けなかった。これは大きな禍根(かこん)を残した。

 ASEAN外相会議では必ず、「EAECを早く成立させる」との共同宣言がでてくる。まして日本はアジアの一員だから、今からでもEAEC参加を表明すべきだ。


よしの ふみお

 一九五七年福岡県生まれ。早稲田大学卒。同大学院博士課程退学。高崎経済大学講師、助教授を経て現職に。専門は国際経済学アジア経済論、特にASEANを研究。


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