970615


欧州労働運動の大きな変化

欧州問題研究家 海原 峻氏に聞く


 今回の仏総選挙における、第一回投票を九三年と比較してみると、得票率で社会党は二〇・二%から二五・一%に、共産党は九・二%から一〇%へとわずかに伸ばしている。全体として左翼は二九から三五・一%へと五ポイントほど増えている。

 ただ社会党は八〇年代、ミッテラン政権の下では三〇から四〇%の得票率だったので、そこまでには至っていない。九三年は歴史的敗北といわれるようにざん敗したが、今回は若干回復した。共産党は、票が固定しておりほとんど増えていない。

 そして今回の特徴は、保守二党や社会党など既成の大政党の得票率が全体として減っていることである。逆に極右や環境派など周辺的な政党が九三年は三一・一%だったものが、今回は三五%に増えている。共産党も周辺的政党と考えれば、四五%になり、いかに既成の大政党への政治不信が高いかが分かる。しかもそれは拡大している。投票率が六八・三%と六八年に第五共和制になって二番目に悪いのもその現れだ。

 今回の総選挙の背景だが、通貨統合と関連して欧州各国は社会保障などの切り捨てなどによる緊縮財政を必要としている。その基本はサッチャー主義である。ウルトラ・リベラリズムというか競争原理を打ち出している。そしてそれによって日本や米国に対抗しようとしているのだが、競争原理を貫くなかで通貨統合を実現しようとするものだ。

 欧州労働運動の高揚の背景には、失業問題がある。EU全体で失業率は一〇%を超えているし、これまで経済が好調だったドイツでも四百万人以上の失業者がいる。

 そうしたなかで社会保障の切り下げ、公務員の削減、民営化などが欧州の社会運動の変動もたらしている。ここ二、三年で独、仏、伊などでも二十年近くみられなかった労働運動の大きな変化、高揚が起きている。

 また農業問題では、生産価格差があり、安いスペイン、ポルトガルの農産物が大量に流れ込み、大手スーパーが国内農産物を買いたたき仏農民はやっていけなくなった。仏農民が闘わざるを得なくなっている。

 しかし、今後社会党がこれらの難問に対処できるのかといえば、難しいと思う。通貨統合は、もともとミッテラン政権が推進していたので、政府の基本姿勢は変わらないだろう。もちろん財政問題があるので、若干の延期や条件の緩和など修正はあるかも知れないが、基本的には進められるだろう。


 六月一日に行われた仏総選挙の決選投票で、保守・中道連合の与党がざん敗し、社会党、共産党などの野党が勝利、ジョスパン内閣が成立した。今回の総選挙の焦点は、欧州連合(EU)の通貨統合のため社会保障の切り捨て、公務員の賃金凍結、公共サービスの切り捨てなどの「改革」政策に対して国民がどんな審判を下すかであった。結果は、国民は犠牲の押し付けには断固としたノンを表明した。この選挙結果はEU通貨統合に大きな影響を与えるとみられるが、わが国政府が進めている「改革」の行方をみる上でも重要なしさを与えている。

行革、規制緩和で国民総犠牲

 今回の与党の敗北には、ここに至る歴史的経過がある。仏財界、支配層は、冷戦後の激しい国際競争の中で米国、日本にうちかつために、巨大な市場を形成することをめざしEU統合を急いできた。
 マーストリヒト条約にある欧州通貨統合の条件は、財政赤字が国内総生産(GDP)の三%以内であることや累積債務がGDPの六〇%以内であることなどである。シラク政権は、これを実現するために行財政「改革」を進め、社会保障の切り捨て、公営企業の民営化、公務員の首切り・賃金凍結攻撃を強めていた。

 シラク政権は「欧州統合が進めば経済も発展し、雇用も増える」と主張してきた。しかし、実態は勤労国民の犠牲ばかりが進む、失業は一三%、四百万人にも達した。さらに長期失業に対する最低手当(約五万円)受給者は百万人、経済的に不安定な人びとは千二百万人とみられている。

 シラク政権は最低賃金制の廃止すら言い出し、労働者、国民の不満は高まっていた。それは九五年五月の大統領選挙でシラクがわずか五・三四%の僅差で当選したことでも明らかである。
 

仏勤労国民はねばり強く闘う

 シラク政権は、九五年九月に公務員賃金凍結予算を出したが、公務員労働者はこれに対し、十月に五百万人が参加するストライキで闘った。シラク政権はさらに社会保障の切り捨て策を打ち出し、国民の不満はいっきょに高まり、労働者だけでなく学生や失業者なども闘いに加わり、年末には一カ月におよぶゼネストが闘われた。

 九六年に入っても社会保障改悪に反対する闘いは続き、四月には医療改悪に反対する集会やストに医者、看護婦だけでなくインターンなども参加した。 

 社会保障改悪攻撃に各地で政府批判の集会が行われ、十月にはゼネストと戦後最大の百五十万人によるデモが行われた。

 また、農民もスペイン、ポルトガルなどからの安い農産物の輸入と大手スーパーなどの買いたたきに反対し、集会や道路封鎖などで闘っていた。

 この二年間、まさに労働者を先頭に国民がシラク政権の「改革」に反対してくり返し闘いを展開してきた。

 橋本政権による「改革」攻撃を打ち破るために、仏の労働者、農民など国民各層の闘いに学ぶことが重要である。仏国会は、保守・中道政権の下で「改革」派が圧倒的であった。国民は街頭で闘い、力をたくわえた。労働者による断固たる闘いと、国民運動が勝利のカギである。闘えば勝利できることを教訓として生かすことが、先進的労働者をはじめ「改革」に反対する国民各層に求められている。(労働新聞社)


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