970525


日中国交回復25周年

アジアの平和に貢献するもの

日中友好の根本は平和

大学講師・古川万太郎氏に聞く


最近新進党議員などが尖閣諸島に上陸するなど、日中関係を意図的に破壊しようとする策動が目立っている。そうした逆流に対し、日中国交回復二十五周年の本年、日中共同声明と平和友好条約の精神で日中友好関係を発展させることは、日中両国だけでなく、アジアの平和と発展にとっても重要である。元朝日新聞記者で、大学で日中関係史を教えている古川万太郎氏に日中関係について聞いた。


 今年は日中国交回復二十五周年だが、日中関係は国交正常化以来、最悪といわれている。経済交流は盛んになっているし、われわれのような民間交流も順調に継続されている。問題は日中の政府関係である。

 政府関係が悪化した原因は三つある。

 一つは歴史認識に関する問題。二つめは、日米安保条約をめぐる問題。三つめは領土問題である。

 関係悪化は、両国政府間に国交回復二十五年もたちながら相互信頼が欠けているのが根本原因だと思う。日米安保問題にしても、領土問題にしても政策問題だから、相互に信頼関係があれば協議によって解決できるはずだ。

 その最大の問題は歴史認識問題にあると思う。歴史認識問題は両国政府がつき合っていくうえでの基本問題である。この点でいえば、日本政府・政権党に依然として過去の日中間の歴史的経緯(けいい)についての認識がまったく欠落している。

 それを象徴するのが、橋本首相の靖国神社参拝だ。八五年に当時の中曽根首相が靖国参拝を行い、中国があれだけ批判し、今後行わないと政府間で合意されたはずだ。ところが今回その合意を破った。日本政府が信頼関係をこわしたことが、関係を悪化させた原因である。国と国との関係も人間と同じで、相手の立場を尊重し合うことが重要だ。

 歴史認識問題は中国がどうこうというからではなく、日本国民自身の問題として考えるべきだ。過去の軍国主義時代の侵略がアジア人民に被害を与えただけでなく、日本国民に対してどうだったのか、日本国民の問題でもある。歴史認識を明確にさせるのは、アジアとの関係だけでなく、日本の歩む方向、つまり平和の道を歩むのか、そうでなく軍国主義を肯定するのかという問題だ。

 まさか再び戦争をしようとするとは思わないが、問題をそのままにしておけば、新たな軍国主義の道を歩む恐れがあると思う。一部にそういう勢力があり、決して軽視できない。

 日本政府・政権党が歴史認識をいっかんしてあいまいにしているので、中国や韓国、朝鮮民主主義人民共和国などアジア諸国が警戒するのは当然だ。誤解だとはいえない要因を日本がつくりだしている。過去の侵略戦争を肯定するような一連の「閣僚発言」は、みなそうだ。あの発言をアジア諸国からみれば、また日本は軍国主義の道を歩もうとしていると思うだろう。そうじゃないといっているのは日本だけで、外国からみればそう映る。

アジアで主導権ねらう米国―米戦略に組み込まれた日本

 日米安保条約は、日本で考える以上に周辺諸国で問題になっている。日米安保条約についていえば、基本的に、独立した国に外国軍の基地があることが異常なことだということだ。戦後の諸情勢によって、ヨーロッパ諸国でも外国の基地が置かれているという異常な状態が続いてきた。ところが、冷戦構造が変わった以上、自主・独立の国に外国軍の基地があることをまず異常な事態だと考えるべきだ。

 日米安保の見直しが急速に高まってきた。その背景について日米政府は明確に理由をいわないが、多分ねらいは台湾問題だろう。米中は三回のコミュニケを出しており、米国がコミュニケをその通り尊重していけば、米国が台湾問題に口出しすることはないはずだ。台湾問題は、中国の内政問題なのだから。

 しかし、米中正常化以降も引き続き、台湾を米国の影響力のもとに置こうとする勢力がある。米国には、世界で唯一の超大国として、世界を指導していこうとする考え方が根強く存在している。

 その米国の世界戦略に異をとなえるのが中国だ。もちろん他にも米国の意に従わない国もあるだろうが、そのなかでいちばん力があるのは中国だ。米国は対中関係で台湾を一つのカードにしようとしている。米国は台湾問題をきっかけにアジアでの主導権確立をねらっている。そして米国はその政治的、軍事的戦略に日本を組み込もうとしている。ここから問題が派生していると思う。

日中友好の重要性

 日中友好の中身は何なのか。一番の根本は平和だと思う。だから日中友好は日本にとり、国の基本にかかわる問題である。

 いうまでもなく、日本はかつて中国などを侵略し、アジア人民だけでなく日本国民にも大きな被害を与えた。この歴史の厳しい教訓からみれば、日本と中国が平和な関係であってはじめて、日中両国民は安定し繁栄した生活を営むことができる。まさにそのことが日中友好の基本的に重要な点だ。

 日中友好を発展させ、日中という二国間の平和から、アジアにおける多角的な平和な関係へと広げていくことが重要だ。アジアで平和で安定した関係が確立されれば、大戦が起きるようなことは考えにくくなる。まさに日中友好が世界平和に貢献する。

 しかし、日本政府がどういう外交を推進しようとしているのか、それを考えると不安になる。日本は米国の世界戦略に組み込まれているが、これはアジアの不安定要因になる。残念ながら政府・政権党が日中関係のもつ重要性を認識できていない。

 現在、政党が総与党化するなかで、日本の外交戦略がどうあるべきか、真剣に考えている政治家があまりにも少なすぎる。もう少し、日本自身の立場に立つ、自主・独立を基本にすえた外交のあり方を考えてほしい。


ふるかわ まんたろう

 一九三三年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。朝日新聞記者をへて大学講師(日中関係史)。日本中国友好協会全国本部副理事長。「日中戦後関係史」「近代日本の大陸政策」など著書多数。


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