970515


医療保険制度改悪――またも国民にのみ負担増

国民運動で反撃を

高齢者・退職者団体連合/医療福祉専門委員会常任幹事 須藤 義美氏に聞く


 医療保険制度改悪案が五月八日衆議院を通過し、現在参議院で審議中である。今回の改悪案は、健康保険加入者の本人負担の倍増、老人医療での本人負担の月千二十円から一回五百円(月二千円どまり)、薬価の負担など大幅な国民負担を強いるものである。これは橋本内閣進める「六つの改革」のなかの社会保障構造改革の第一歩として位置づけられている。改革といっても社会保障制度の根本的な破棄にほかならない。政府の医療保険制度改悪について、高齢者・退職者団体連合の医療福祉専門委員会常任幹事である須藤義美氏に聞いた。


 政府は医療保険制度改革法案提出に際して、国民負担率(租税負担額と保険料などの国民所得に対する比率)が将来五〇%を超えないようにするといっている。だが、われわれ国民からすれば、保険料を払い、税金を払い、その上治療のたびに負担させられている。国民からすれば負担率は七、八〇%にもなる。まずこれが根本的におかしな問題だ。

 今回の改悪案では、治療の際の本人負担がますます増える仕組みになっている。医療費全体が増えないようにするためには、例えば薬価問題では、薬価差益が年間八千億円あり、不明金が一兆六千億円もある。合計すれば二兆四千億円にもなる。これを解決するだけでも医療費全体はずいぶん減り、負担はかなり軽減できるはずだ。

 そして消費税は高齢化社会に備えるためといわれて導入された。しかし医療にはまわされず、ペテンにかけられた。税金そのものの見直しが必要だと思う。大企業のための租税特別措置などを見直せば、すぐに財源はできるはずだ。

 そもそも医療保険制度は、保険料を払えば「ただ」で治療を受けられるというものだった。それでも医療費が足りない場合は、政府が負担することになっていたはずだ。だから本来は本人負担そのものがおかしいのである。

 われわれは医療保険制度の改革にすべて反対ということではない。医療費全体が増加しているのだから、納得できるものなら反対ではない。つまり、政府も医者もわれわれも同じように負担するなら分かる。治療を受ける国民の負担を増やすなら国庫負担も当然増やすべきだ。

 ところが政府は、今から五年前に政府管掌健康保険(中小零細業などで健康保険組合を組織していない事業所に対して、政府が一括して保険者になる保険。政管健保)への国庫負担を一五・五%から一三・五%に下げた。今回の改正でも政管健保の保険料を上げるとしながら、国庫負担は下げたままなのはおかしい。国庫負担も保険料と同じように増やすべきだ。

 ところが連合は、そのことを要求しなかった。連合に参加している労働者は組合健康保険が多いが、政管健保の労働者もかなりいる。連合は少なくとも政管健保の国庫負担率は前に戻すよう要求する運動を起こすべきだった。まして本人負担は二割なんだから。だから連合がこうした運動を取り組まなかったのは理解できない。

年金生活者は病気になれない

 医療保険制度の改革法案は、まだ全体像が分かりにくい。政府は三カ月以内に医療保険制度の基本的な改革プログラムをとりまとめるといっている。改革するということはまだ問題点が残っていることだ。だからこの点をつめないと全体像が出てこないだろう。

 今回の改正で、老人は一回の治療で五百円の本人負担となり、一月では二千円止まりとなった。もともとの老人医療の本人負担は二%程度だったが、現在の月千二十円での本人負担率はだいたい五%で、今回の二千円だと約一〇%になる。

 医療保険制度が改正されれば、年間三、四百万円以上もらっている年金生活者はともかく、月に十万円程度の年金ではどうにもならない。しかも年金が年間二百万円以下の人は四割くらいいる。だから夫婦で病気になったら大変だ。

 また薬価はどうしても納得できない。若い人も高齢者からも同じように負担してもらうといっても、医療を受ける回数からみれば高齢者が多い。しかも高齢者の場合には、慢性的な病気も多くなっており薬の数が増えて薬価の負担はかなり多くなる。

 そして薬価の問題では、薬価が診療報酬に入っている分と入っていないものがある。ところが誰がそれを見分けるのか。医者が患者さんにこれは診療報酬に入っている分、これは入っていないものなどと明細書を書くわけではない。先ほどの二兆四千億円もあり、薬価の不明瞭さに問題を感じる。

 薬剤費をどう整理するのかきちんとすべきだ。むだな薬はいらないというが、今のままではむだな薬も出さざるを得ない。ましてわれわれには薬について判断はできない。

 血液製剤によるエイズ感染も厚生省と製薬会社のゆ着が原因だったが、厚生省と製薬会社のゆ着がある限り薬価は高くならざるを得ないだろう。だからそのゆ着をなくさなくてはならない。そのためには情報公開も一つの重要な手段だと思う。

国会や政党は期待できない

 今の国会や政党には、本当に国民のための医療改革は期待できない。医療について分からない議員ばかりで、厚生委員会のメンバーがいくらか知っているぐらいだ。今回の医療保険制度改革で民主党が与党協議に参加し四党協議になったように、頼りにならない政党ばかりだ。

 この問題は労組や医師会、医療・福祉団体、高齢者団体などが連合して闘うのが大事だと思う。われわれ高齢者・退職者連合からすれば、現役に「医療保険制度改革はおかしい」と言ってほしい。高齢者・退職者団体連合は、現役でないのでストライキも打てない。われわれも頑張るが、現役の労働組合が頑張ってほしい。


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