970205


97年度政府予算案 何が改革元年予算か

一人当たり7万5千円の負担増

税制経営研究所所長 谷山 治雄氏に聞く


 政府は昨年十二月二十五日、九七年度予算案を決定、現在国会で審議中である。「改革元年予算」は、大企業・富裕層を優遇し、国民にかつてない大きな犠牲を押しつけるものである。九七年度予算案について、谷山治雄氏に聞いた。


 九七年度政府予算案についてだが、まず感じるのは景気に水をかける予算だというのが第一印象だ。

 日本はバブルが崩壊して長い不況に入っている。昨年秋頃から景気が若干回復しつつあるといわれているが、それについても最近の株安など疑問がある。仮に景気が回復しつつあるとしても、それに逆行する予算だ。

 第二に、これほど大規模に国民負担を押しつけている予算は過去に例がないのではないか。国民にとっては、よいところを探しても見つからない予算だと思う。これまでの予算では、悪いことがあってもよいこともあるものだったが、今回の予算案にはよいところがまったくない。

 第三に、自民党が少数政権なのに、かつて自民党政権が国会の過半数をおさえていた時のような振舞いだ。勝手な振舞いが露骨に出ている予算案だ。その例が整備新幹線ではないか。その点でいえば社民党、さきがけの責任も重いと思う。

 第四に、橋本首相は「改革」と盛んに言っている。何を改革したいのかといえば、予算でも聖域をもうけないで踏み込むといったが、踏み込んだのは社会保障関係中心で、防衛費や公共事業費には踏み込んだ気配がまったくない。そういう意味で看板に偽りありというか、もともと看板がおかしかったのか。こういう印象を強く受ける。

国民を直撃する増税、医療保険改悪

 国民生活からいうと消費税率引き上げが最悪で、次に医療保険制度の改悪、そして公的介護保険の問題がある。

 消費税率引き上げと特別減税の打ち切りで国民に犠牲が押しつけられる。消費税増税で約五兆円、特別減税打ち切りで二兆円となる。大変な犠牲である。しかも今は賃金も上がらないし、もちろん一時金も上がらない。物価にしても下がることはない。その上に医療費の改悪で二兆円程度の負担増になる。これらの三つで国民負担は一人当り約七万五千円にもなる。

 消費税のことをいえば、一九八九年に消費税を三%で導入した時には所得税減税を行った。物品税など個別消費税といわれている間接税を廃止したり軽減した。消費税が導入されたが、減税がかなり優先された。今度はまるまるの増税で、大きな違いがある。

 政府は、二年前に三兆五千億円の所得税減税をしたのだから、その時の増減税を一致させるものだといっている。そうだとしても、今回の消費税増税で差し引き一兆五千億円の増税になる。だから政府の言い分はおかしいし、要するに増税にしかならない。しかも減税といっても、当時もいわれたが年収八百万円以上の人にしか減税にならなかった。

 医療保険制度は、本来は保険料を払えば負担なしに医療が受けられるというのが筋である。だから一割負担すらおかしいのに、負担の倍増などとんでもない。これは政府の公約違反だ。憲法に保障された健康で文化的な生活を営む権利を奪うものだ。

 介護保険も税金でまかなうべきものを保険料で行おうとするものである。しかも市町村では保険料の徴収が難しいなど実現できるかどうかも疑問だ。

防衛費こそ削れ

 聖域とされた防衛費だが、世界的には冷戦が終わったわけで世界は軍縮の方向にある。日本だけがなぜ増やしていくのか、大きな疑問だ。

 また沖縄問題にしても何も解決していない。普天間基地の代替海上ヘリポートにしても、約一兆円かかる。しかも防衛費の枠内で処理しなくてはならないものをはずしてある。だから防衛費は実質上はもっと増えることになる。

 公共事業は一般論として社会資本の蓄積、整備ということで各党は賛成してしまう。しかし中身が問題だ。これだけ追加していながら、阪神大震災で被災した人びとの住宅は建たない。真っ先に建てるべきだ。また日本海の重油問題にしてもなぜできないのか。公共事業というのだから、阪神の被災者の住宅や日本海の重油回収などこそ公共事業のはずだ。

 ところがやっているのはハコ物と呼ばれるものばかり。その最たるものが臨海再開発だと思う。これが公共事業なのか。国民生活の向上に役立つ中身が必要だ。

 また公共事業は、民間がやれないもので本来採算が合わないものだ。採算が合うなら民間がやる。その公共事業に建設国債をあてている。公債は利息がつく。十兆円の国債を起債するとだいたい四%の利息がつくので実際には十兆四千億円の起債と同じだ。採算の合わないものに利息のつく金を使うべきではなく、税金を使うべきだ。財政赤字といわれているが、これまでの国債発行による利息もずいぶんたまり、財政赤字の原因の一部になっている。

富裕層・大企業には負担なし

 橋本政権は「六つの改革」といっているが、富裕層、大企業に負担を負わせる改革はどこにもない。結局、社会保障では医療保険改悪を中心とした改革で行財政改革にしても整備新幹線のように旧国鉄の赤字を放置したまま着手しようとするものだ。

 ところが改革というと、どの党も賛成している。改革、規制緩和、地方分権という一般論には反対しない。

 規制緩和にしても、スーパーなどの営業時間延長や保護規制を緩和しようというもので中小企業いじめに過ぎない。大田区などの中小企業は空洞化などで苦しんでいるが、空洞化を止めようともしていない。

今こそ国民の統一した運動を

 国民への犠牲の押しつけに対しては国民運動の盛り上がりが大切だと思う。かつて大型間接税反対運動で社会党はかなり頑張った。ところが今は与党に行ってしまって、五%引き上げも村山内閣が決めた。これは困った問題で、社会党、今の社民党にとっての責任は大きい。民主党も消費税増税に賛成している。

 国民運動がますます重要になっているのに、運動の側が分裂させられている。労働組合が分裂していることも問題だし、民主勢力が大幅に後退したことが問題だと思う。共産党が頑張るだけでは、広い戦線はできない。これをなんとかしないと運動の発展は難しい。最近は統一戦線や統一行動があまりはやらないみたいだが、国民の統一的な運動が必要だ。


たにやま はるお

 一九二五年生まれ。中央大学卒業後、税理士に。一九六〇年から静岡大学など五大学で三十年間講師を務める。旧東独のマルチン・ルーテル大学客員教授も務める。「日本の税法」など著書多数。現在は日本租税理論学会理事、不公平な税制をただす会運営委員。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997