20020101

国際情勢への対応

元インド大使  野田 英二郎氏に聞く

日本外交の基本は

 日本が戦後、国際社会に復帰することを許されたのは、長期にわたり植民地支配や侵略戦争を行った戦前・戦中の行動に対する反省を出発点として、新憲法を制定したこと、ならびにサンフランシスコ平和条約を結んだことによります。
 ですから、これを常に念頭に置いておく必要があります。特にアジア諸国の不信を招くような政策を決して進めてはなりません。日本はアジア諸国の中では際立った経済大国なので、アジア諸国から信頼されず警戒されるならば、戦争前と同様に日本がアジア最大の不安定要因になる恐れがあります。
 昨年は、靖国参拝問題や教科書問題などでアジア、特に中国、韓国両国との関係が緊張しました。その後、小泉首相が中韓両国を訪問し、「緊張が緩和した」といわれていますが、これは9月11日事件のお陰であって、問題が基本的に解決したわけではありません。
 わが国が歴史認識を正しく持っていさえすれば、アジア諸国との相互信頼・共存共栄の関係を築くことは難しいことではありません。十分に可能です。これが、日本外交の基本です。
 アジアの情勢において特に注目すべきは、貿易、投資などアジア域内の相互依存の割合が非常に高くなっていることです。域内の統合までいかないまでも、地域全般の経済的協力の関係が着実に前進しており、このような動きは、アジア地域全般の平和と安定のための最も確実な保障となりつつあります。
 昨年の米国テロ事件に関連して、注意すべき問題がいくつかあります。1つは、「テロ対策」のゆえに、歴史認識の問題をうやむやにしてはならないということ。もう1つは、日米安保条約はすでに本来の歴史的使命を終わっているにもかかわらず、むしろ「テロ対策」ということで日米安保体制がいっそう強化されていることです。中国との相互信頼・平和共存は、わが国の存立に不可欠の要件です。われわれは日本の国益を守るうえで、これからも日米安保体制に固執しつづけることがプラスになるか否か、再検討すべき段階にきています。また「テロ対策」といっても、そもそも軍事力の威嚇で政治問題を解決できないことは、日本がかつての長期にわたる戦争で学んだ教訓です。
 教科書問題と同様に、「テロ対策」に隠れて安保強化、自衛隊海外派遣に進んでいることにつき、民間での論議が起こってよいのではないかと思っています。また米国があまり独走しないように、友好国として助言することも必要でしょう。

日中正常化30周年にあたって

 本年9月は、日中国交正常化30周年です。この時にあたり銘記すべきことの第1は、もちろん歴史認識をおろそかにしてはならないということですが、次には「改革・開放」で経済が非常に発展し、世界貿易機関(WTO)に入った中国との共存共栄を図ることです。すでに日中両国は経済的にも切っても切れない相互依存の関係を築いています。もちろん、両国経済の結びつきに伴って、摩擦も生じます。こういう問題を調整して、どうしたら共存共栄できるかということを、具体的、専門的にお互いに知恵を出し合って考える段階だと思います。
 3番目には、若い世代の交流が重要です。正常化30周年には、ぜひ大規模な各方面の、特に若い人びとの相互交流を実施したいものです。