20011015

米英のアフガン攻撃
本質は「国家テロ」そのもの

自衛隊参戦はわが国孤立の道

阿部 政雄・「日本・アラブ通信」主宰に聞く


 米英によるアフガニスタンへの攻撃に対し、イスラム圏を中心に、全世界で怒りの声が高まっている。小泉政権は、何が何でも対米支援を行おうと「テロ対策関連法案」の成立を急いでいるが、これもまた、内外の厳しい批判を受けている。わが国がアジア・中東の国ぐにと平和的な関係をつくる上でも、米国への支持をやめることをはじめ、自衛隊による参戦を許さず、自主的な国の進路を実現しなければならない。中東・アラブの問題に詳しい、「日本・アラブ通信」主宰の阿部政雄氏に聞いた。

 米国への同時テロ事件を口実として、米英はアフガニスタンへの空爆を開始した。また、遠くないうちに、地上戦に突入する可能性も高いと言われている。
 だが、アラブ諸国のみならず、全世界の心ある人びとは、「なぜ米国はこんなに国際法を無視するのか」という思いなのではないだろうか。

まず「攻撃ありき」の米国

 米国のとっている態度は、まず「攻撃ありき」で、いわゆる「テロリスト」やアフガンのタリバン政権を「自由」の名の下にやっつけてしまおうというものだ。
 だが、貿易センタービルや米国防総省への攻撃が、オサマ・ビンラディン氏やその組織「アル・カイーダ」による犯行だという確固たる証拠は何もない。
 実際、「自爆テロの実行犯」として名指しされた者のうち、一人はパリに、一人はチュニスに生存しているという情報もある。まして、「車内に残されていた」とされる「アラビア語の航空機マニュアル」や「コーラン」「パスポート」を残したなどという情報は、まったく信用できず、でっち上げの可能性さえ否定できない。地球上のどの国に、アラビア語で飛行機の誘導をする管制塔があろうか。
 また、仮にオサマ・ビンラディン氏らの犯行であったとしても、それはアフガンにはまったく関係のないことだ。こうした薄弱な根拠で、数百万人の難民を新たに生み出すような空爆が、どうして許されるのだろうか。
 何が何でもアフガンを攻撃し、タリバン政権を転覆させようとする米国の態度の背景には、一つに、冷戦終結後、リストラに見舞われた米軍需産業を救うため、中東のどこかで戦争を引き起こそうと虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた米軍産複合体の要求があり、兵器の在庫一掃を図ろうという意図があるのではないか。
 しかし、こうしたなりふり構わぬやり方は、米国がベトナム戦争のような泥沼の闘いに引きずり込まれる公算が大であるばかりでなく、世界各国からの激しい反米運動に直面せざるを得ないであろう。パキスタンをはじめとした各国で、反米デモが吹き荒れるのは当然のことだ。
 また、アフガンともども、まっ先に爆撃の対象としたかったとされるイラクには、これまで十一年を超える無慈悲な経済制裁への同情が、世界、とりわけアラブ諸国で高まっている。米国はますます、厳しい抗議の嵐に立たされるであろう。
 こうしたやり口は、これまでの帝国主義諸国が中東でやってきたことと何ら変わりはない。これこそ、米国やその手先であるイスラエルが行ってきた「国家テロ」そのものである。
 国際世論は、罪のない人びとを殺害する「報復戦争」に大いに疑問をもっている。まず、事件についての徹底した真相究明こそが重要ではないか。

対米支援はわが国を孤立させる

 小泉政権は「湾岸戦争の二の舞を演じるな」と、カネだけでなく自衛隊もアフガン周辺に派遣しようとしている。
 小泉首相がほいほいと自衛隊を派遣するのは、何よりも米国に忠勤を励もうという涙ぐましい「忠誠心」の発露であろうが、彼は、米国の一閣僚でも何でもなく、彼がすべきことは、何よりも危機にある日本の現状打開である。
 湾岸戦争で対米資金協力を行った上に、もし今回、「日の丸を見せよというのは国際社会の要請」などという米国の策略に乗せられ、「テロ対策関連法案」を成立させて自衛隊を派遣したあげく、現地の人との摩擦が起きようものなら、取り返しのつかないことになる。これまでわが国は米英とは違い、中東やイスラム圏で直接に「手を汚した」ことはない友好国であった。こうした日本への信頼は、一挙に失われてしまうだろう。アラブ諸国にとっても、経済発展を模範として尊敬を集めてきた親日感情も、砂漠のしんきろうのように消えてしまうであろう。
 そうなれば、日本は血で汚れた植民地主義者、帝国主義者と変わらなくなる。これは、わが国をアジア、中東で孤立させる道だ。逆にこれは、この地域での権益拡大を狙う米国の「思うツボ」でもある。
 このような「テロ対策関連法案」に対して、与党はもちろん、民主党までも賛成するとは、まったくもって許されないことだ。

米国に独自性を示せ

 わが国は戦後、発展途上国への経済支援を行ってきた。もちろん、政府開発援助(ODA)にはいくつかの問題点もあったが、それを克服すれば、アジア、中東などでの国家建設に、積極的・平和的に貢献することは可能だ。
 ところが、小泉政権には確固たる外交政策がない。
 彼は、米国から要求されたことを何でもかんでも飲むことが「親米」だと思いこんでいるようだ。だが、真の「親米」とは、米国の悪い点をしっかりと指摘する立場のことだ。その意味で、小泉首相は実は「親米」どころか、「反米」といってもおかしくない。
 また、小泉政権の政策を批判する国民の側もまた、あるべきわが国の進路を真剣に議論し、日本のたどるべき明解なビジョンを示すことが求められているといえる。


あべ まさお
 1928年生まれ。南山大学英文学科中退。駐日エジプト大使館文化部、アラブ連盟東京代表部勤務などを経て、99年まで東海大学講師。日本ペンクラブ国際委員。著書に「アラブパワーは世界を動かす」(講談社)、「パレスチナ問題」PLO研究センター編(亜紀書房)など。

「日本・アラブ通信」ホームページ
 http://www.japan-arab.org/

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