20010305

えひめ丸事故

犯罪・事故の根源、米軍の撤退を

軍事問題評論家・藤井 治夫


 米原潜による実習船衝突事件は、デモンストレーション航行など、その原因が明らかになりつつある。米国は特使を派遣し、形ばかりの「謝罪」を示しているが、米国・米軍に対する国民の怒りは高まっている。だが、わが国支配層・マスコミは、日米同盟の維持を最優先させ、事件が安保体制に影響しないよう、世論の火消しにやっきとなっている。連合沖縄による海兵隊削減などを求める「百万人署名」のように、犯罪・事故の根源である米軍基地の撤去を求める大衆行動が、ますます重要になっている。事故の背景などについて、軍事問題評論家の藤井治夫氏に聞いた。

 今回の、米原潜「グリーンビル」による実習船「えひめ丸」への衝突・沈没事故は、少し考えれば、事故を防ぐ手だてがいくつもあったことがわかっている。それを行わず、この事態を招いた原因は、第一に、急速浮上という危険な訓練(ショー)を行っていたことにある。

米軍の存在こそ事故の背景


 通常、こうした訓練を行う場合には、演習海域を設定して、水上は監視船によってピケットを張り、民間船が立ち入らないようにするものだ。さらに、ソナーや潜望鏡で周囲を警戒するのが当然だ。これを行わず、しかも演習海域外で行うなど、論外だ。
 しかし、こういうことはよく起きている。九八年にイタリアで、低空飛行訓練中の米軍機がロープウエーのケーブルを切断し、観光客ら二十人が死亡する惨事が起きた。日本でも八七年、米軍機が奈良県で、木材運搬用のワイヤを切断した。谷間を低空飛行することは非常に危険なのに、米軍機はアクロバットを競い合っている。
 しかも、こういう事故を起こしても軍人はほとんど無罪になり、米国が被害者に賠償金を払うことですませている。今回も、「機械の故障」を口実に無罪となり、真相も十分明らかにされないのではと危ぐしている。
 先日の日航機ニアミス事故も、背景には、日本領空の空域設定が軍事優先で、米軍が必要なところをとってしまっていることに原因の一つがある。安全のための国際ルールがあるが、米軍はその例外扱いだ。わが国のパイロットや海員は、狭い区域で過密な運行を強いられている。
 沖縄の問題も、今回の原潜事故と同じことだ。沖縄の場合は、在日米軍基地の七五%が集中しており、それが五十年続いている。犯罪や事故が多いのは、米国外で唯一の海兵隊駐留地ということがある。そもそも、沖縄にいる海兵隊は、北富士・東富士にいた部隊だ。それが沖縄の施政権が米国に移管した後、移設された。その状態を、せめてもとに戻すことがなぜできないのか。
 北朝鮮の「ミサイルの脅威」が言われるが、米軍が実際に領土領海領空、そして国民の命を脅かしているではないか。そういう声を取り上げれば、対応策は明らかだろう。

米国は突出した戦争国家

 問題の根本にあるのは、米国が世界で突出した戦争国家であることだ。そのひずみやおごりが、こういうかたちで出ている。
 米国の軍事力はあまりにも大きすぎる。とくに、海軍と空軍は飛び抜けている。米海軍の艦艇総数は五百一万トンで、同盟国の英日仏独伊を合計しても、二百五万トンでしかない。ちなみに、中国は百二万トン、ロシアは二百五十二万トンだ。空軍では、作戦機が四千五百七十機。英日仏独四カ国合計でも、二千百六十機でしかない。
 軍事費の支出もすごい。ストックホルム研究所によると、米国は世界の軍事支出の三六%を占めていて、日本やフランスは七%、ロシアや中国は三%程度だ。
 こうした膨大な軍隊は、米国内でもさまざまな訓練を行っているが、日本におけるほどひどいことはしていない。厚木などで行っている夜間連続離発着訓練(NLP)は、米国では砂漠地帯で行っている。また、北朝鮮などの「仮想敵国」に似た日本国内の地域などを訓練地域にしている。以前は、北海道をソ連の土地に見立てて訓練を行っていた。富士山周辺は、中国に見立てる。そこに住んでいるのは日本人なのに、米軍兵士は、だんだん敵国にいるかのように思ってくるという。

米戦略に巻き込まれるな

 日本や近海で米軍が動いていて、犯罪や事故を起こすということだけでなく、日本が米国の世界戦略に組み込まれているということが重大だ。
 昨年発表された米国のアーミテージ、ナイら超党派グループの提言では、ブッシュ新政権で具体化される日米関係について述べている。
 そこでは、新ガイドラインで決めたこと、つまり有事法制やスパイ防止法、情報面での日米協力を「最低限のこと」としている。そして、「バードンシェアリング」から「パワーシェアリング」へということで、それから先のことを目標にしている。
 要するに、先のイラク空爆における英国と同じように、日本も攻撃面で協力しろということだ。そこで、「集団的自衛権の行使」ということが出てきている。民主党内にもそういうことを主張する人びとがいる。英国のように扱ってやると言われて喜んでいるようでは、情けないではないか。これを許せば、日本は戦争国家への大きな転換になる。
 これと闘う運動の側も、「安保破棄」と言うだけではなしに、具体的な要求と行動が必要だ。連合沖縄が取り組もうとしている「百万人署名」は重要だが、沖縄県民だけでは安保破棄はできない。さまざまな機会をとらえて運動を盛り上げ、日本国民が全体として政府に要求するようにしなければならない。署名であれば、全国で五千万人分ぐらい集める努力が必要ではないか。