20001215


東京・荒川区の自転車税計画

区民の反撃で撤回かち取る

石井 忠義・東京都自転車商協同組合理事長に聞く


 こんにち全国で、自治体による独自課税案が相ついでいる。東京荒川区でも藤枝和博区長が十一月三十日、区内で自転車を購入する際に課税する自転車税を導入する計画を明らかにした。区長は「放置自転車対策」や財政難を口実にしているが、区民や零細業者がほとんどの自転車小売店への犠牲転嫁であり、断じて許されない。自治体には課税自主権があるにしても、誰から税を取るかが問題であり、財政難というなら、まずその原因にこそメスが入れられるべきである。自転車税に対して広範な区民の怒りがわき起こったのも当然である。これに押された藤枝区長は十二月十二日、新税計画の取り下げを表明した。いち早く区長に質問文を提出した、東京都自転車商協同組合の石井忠義理事長に聞いた。


 荒川区で計画された自転車税は、区内で販売される自転車一台につき千円程度の税をかけ、放置自転車対策にあてるというものだ。
 もし、荒川区だけで自転車税を課税することになれば、消費者は近隣の台東区や足立区で買うようになる。当然、荒川区内の自転車店では自転車が売れなくなる。お店は自分で税を負担するしかなくなり、経営が成り立たない。
 しかも今回の計画は、自転車事業者や利用者などの当事者に何の相談もなく、頭越しに出されたものだ。地元商店が怒りを感じたのも当然だろう。
 自転車税の名目は、放置自転車の撤去に費用がかかるというものだ。だがこれは、自転車置き場などの利用環境を整えなかった行政の怠慢を、利用者や自転車業者に押しつけるもので、非常に短絡的な発想だ。
 駅前の自転車置き場などの利用環境は、行政が鉄道業者や自転車メーカーなどと協議会をつくり、整備することが望ましい。荒川区に限らないが、鉄道事業者に駐輪場整備のための敷地提供を要請しているかというと、そうでもない。実際、営団地下鉄の町屋駅前では、営団所有の駐輪場を壊してそば屋に貸してしまった。こういうことをしておいて、一方で利用者に課税するのはおかしい。
 そもそも、荒川区は今年五月に「荒川区自転車等の駐車対策に関する総合計画」を発表した。ここでは、駐輪場の整備・充実もうたわれているし、放置自転車の「撤去および保管に要した経費は、全額原因者負担とする」とされている。
 ところが、計画を出した半年後に、自転車購入者への一律課税をいうとは、まったく一貫性がないし、無茶な話だ。
 藤枝区長は、放置自転車対策には八千万円かかるという。だが、八千万円というコストの明細をオープンにすべきだし、値段を下げる努力もすべきではないか。
 私たちは、八王子市などでは行政と協力して、低コストでの不要自転車処理を実現している。荒川区でも、年間二万台以上も自転車を回収するなど、放置自転車減らしに協力してきた。
 このように、荒川区は放置自転車対策に最前の努力をしてきたとはいえない。財政赤字にしても、なぜそうなったかを考えなければダメだ。最近の増税計画には、「弱いところからとる」という姿勢がみえる。自転車を悪者にしないでほしい。

自転車店は町づくりに不可欠

 私たちは地球環境のためにも、環境に優しい自転車の利用を促進すべきという立場だ。
 協同組合には、都内で千八百店が加盟している。そのほとんどが零細で、高齢化問題・後継者問題を抱えている。このままでは、五〜六年たてば、千二百〜千三百店に減ってしまうのではないかと思われる。しかも、最近は大型店で格安の輸入自転車を大量販売しており、経営は苦境にある。
 大型店は「スクラップ・アンド・ビルド」の利益第一主義で、修理など利用者に対するきめ細かなサービスは、ほとんどやらない。小売店がなくなれば修理をするところがなくなり、当然、利用サイクルは短くなり、使い捨てが増える。
 結局のところ、抜本的な交通政策などの町づくりが必要ではないかと考えている。


弱者への自治体増税許すな

 最近、全国的に広まりつつある自治体による独自課税計画の「旗振り役」ともいえるのが、石原都政である。
 十一月三十日、東京都税制調査会は大型ディーゼル車高速道路利用税、産業廃棄物税、パチンコ税、ホテル税を提案した。さらに、隣接県から昼間流入している勤労者への課税も検討されているという。
 区部においても、荒川区が計画・撤回した自転車税、杉並区のレジ袋税、港区のたばこ自販機税などの増税案が続出している。
 また、神奈川県は自動車税増税を事実上断念した後も、赤字企業の一部に課税する臨時特例企業税などを計画、大阪府も法人府民税の均等割り部分の増税を計画するなど、県民・業者への増税にやっきとなっている。まさに、際限なき増税攻撃であり、とりわけ大多数の住民・中小零細業者への打撃は大きいと言わねばならない。
 これらの攻撃は、いずれも自治体の「財政難」を口実にしている。しかし、まずこの赤字が何によってつくられたか、この責任こそ明らかにされなければならない。
 自治体財政赤字の大きな要因は、とりわけ九〇年代の大企業優先の大規模開発にこそある。この責任をあいまいにし、大多数の住民や中小零細業者への増税を行うことは筋違いである。赤字の解消は、自治体の手厚い保護で利益を得た大企業への増税で行うべきである。
 警戒しなければならないのは、増税攻撃が「環境保護」など耳ざわりのよい「目的」を口実にし、し好品や趣味、廃棄物処理など「税を取りやすく」、しかも住民を分断する分野で先行していることである
 神奈川県では、自動車税増税に合意をとりつけるはずの県民集会で、県民・業界の広範な反対の声がわき起こった。荒川区も、自転車小売商や区民の怒りで、新税を撤回させている。増税攻撃に反対する、地域での広範な運動が求められている。


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