20001125


東アジア戦略の調整でわが国の軍事的役割の飛躍求める

米国が集団的自衛権などを要求

前田寿夫・元防衛庁防衛研修所第一研究室長に聞く


 朝鮮半島における一連の動き、東アジアにおける情勢の変化などのもと、米国のアーミテージ元国防次官補、ナイ元国防次官補など日米問題の専門家グループは十月十一日、「日米、成熟したパートナーシップに向けて」という提案書をまとめた。提案は、日米同盟を米同盟並みの「米国の世界安保の中核」にすえるとしている。日本が憲法で集団的自衛権を禁じていることが、同盟関係の制約になっていると、集団的自衛権の行使を可能にするように求めている。わが国は安保再定義で新ガイドライン、周辺事態法などに踏み込んだが、この提案はさらなる日米戦争協力体制を求めるもので、実際には安保再々定義である。これは、米国の東アジア支配・干渉、米軍駐留が困難になる見通しのもとで、朝鮮情勢に対応しながら戦略的に中国を封じ込めるために、東アジア戦略を調整し、わが国のいっそうの軍事的役割の飛躍的向上を狙っている。この提案に呼応したように鳩山由紀夫・民主党代表は、集団的自衛権を行使できる改憲、国連平和維持軍(PKF)の本体業務への参加をしきりに求めている。こうした危険な動きに反対し、安保破棄・米軍基地撤去の広範な運動を構築し、アジアと共生する日本外交が求められている。前田寿夫・元防衛庁防衛研修所第一研究室長に聞いた。


 この提案だが、まず米国の独善的な考え方だ。自分たちが日本を守ってやっているという前提がある。だから、日本がもっと米国に協力せよ、ということだ。
 だが、日本を守っているというが、米国の戦略のために米軍基地を置いているに過ぎない。それは、在日米軍には日本防衛の戦略がほとんどないことからも明らかだ。だから、在日米軍基地の目的は、アジアから中東までの地域に米国の軍事力を行使するためのものでしかない。
 しかも南北朝鮮首脳会談以来、朝鮮半島は緊張緩和に向けて劇的に変化している。
 それにもかかわらず、米国は「北朝鮮のミサイルが脅威であり、戦域ミサイル防衛が必要だ」と騒ぎ立てている。 それなのに、日本の一部の人びとが米国の主張をう飲みにし「もっと米軍に協力すべきだ」「集団的自衛権があるので協力できないから、憲法を変えよ」などと言っている。
 米国が日本を守る戦力を置いていないのは、米国は日本が攻撃されると考えていないからだ。あるいは攻撃されるとすれば、在日米軍基地への攻撃でしかない。
 それは、四つの条件があるからだ。
 第一に、国際社会は侵略戦争を許さない。第二に、日本周辺諸国との間に軍事的争点はない。領土問題では、竹島や尖閣諸島などがあるが、軍事力で争うものではない。第三に、日本が周囲を海で囲まれており、日本に攻め込むには膨大な艦船が必要である。最後に、内乱などを口実にした大国の介入だが、日本には原因となるような民族、宗教対立は存在しない。
 こうした点から見て、日本が危険になるのは、米軍が日本に基地をおき、周辺諸国に干渉・介入しているからだ。つまり、日米安保条約がわが国への脅威をつくりだしている。だから、周辺事態法などこれ以上米軍に協力することは日本が米国の戦争に引きずり込まれるだけだ。

集団的自衛権、PKF
米の言いなりで政権狙う民主党

 民主党の鳩山代表は、日米安保にのめり込み、集団的自衛権を認めた憲法をつくれとか、米国のための戦争協力には後方も前方もないという主張だ。しかし、周辺事態が何を意味するのかを考えれば、こうした主張はあり得ない。なぜなら、先ほど言ったように、日本事態が起きる条件はない。そうした具体的な問題を考えず、日米関係を緊密にするためには、もっと米軍に協力し、自衛隊までいっしょに闘うべきだととなっている。鳩山のように、米国の言いなりになることで政権に近づこうとするのは、大変な間違いだ。
 自民党や民主党がアーミテージらの提言に呼応したのは、日米安保はわが国の対外経済活動に有利だと考えているからだ。対外的に経済進出するにしても、日米安保があれば米国の海外資本との連携もやりやすいと考えているのだろう。
 しかし、日本は米国に守ってもらっているというフィクションはいらない。米国からすれば、世界戦略を遂行するためには、日本の米軍基地は金では買えないほど大きな価値がある。
 安保がなくなれば、日本が危ないというのは、自民党がなくなれば日本がつぶれるというのと同じようなフィクションである。それは、自民党政治が逆に日本をつぶそうとしているのを見ても明らかだ。
 植民地以外で五十五年もこれほど多くの外国軍隊が駐留している国はない。二十一世紀を展望すれば、現状をきちんと分析し、日本にとって最善の道を探ることだ。日本はアジアの一員であり、日米安保を破棄し、アジアとの共生にこそ平和と繁栄がある。


日米同盟は米戦略の中核
「日米、成熟したパートナーシップに向けて」より抜粋

 中国は社会、経済変動の最中にあり、その結果は不透明だ。
 アジアでは危機が去ったとは言い難い。米国を巻き込んだ紛争は朝鮮半島および台湾海峡でいつ起きても不思議でない状況だ。インド大陸も衝突が心配され、どちらの場合も核爆弾使用という危険をともなっている。

【安全保障】21世紀に向けて日米は早急に安全保障の共通認識と対応を確立しなければならない。明確で実体ある日米関係こそが、アジアにおける紛争を未然に劇的に抑止するからだ。新たな「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)はその意味で、同盟における日本の役割拡大へのステップと見なすべきだ。
 日本の集団的自衛権否定は、同盟関係の制限となっている。集団的自衛権への制限を日本が無くすことで、緊密でより効果的な両国の協力は可能となる…。
 日米は、(大西洋における)特別な同盟関係である米英をモデルにすべきだ。そのために次のような点が考慮されなければならない。
 (1)米国は「尖閣諸島を含んだ日本防衛に強い責務を持つ」ということを明確にし、日本も対等な立場で同盟を支える、(2)ガイドライン実施に向けて法制度を整備する、(3)両国三軍はより緊密な協力体制をとり、国際テロや犯罪にも対応できるよう協力関係を具体的に定義する、(4)一九九二年の国際平和維持活動協力法は日本の海外活動を制限しており、日本はその制限を排除し平和維持活動や人道的任務に参加する、…(5)日米ミサイル防衛協力の幅を広げる。
 …「バードンシェアリング(負担の共有)」ではなく「パワーシェアリング(力の共有)」へと進化する時が来たのである。


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