20000625


朝鮮南北首脳会談

問われるわが国の自主外交

北九州大学教授・前田 康博 氏に聞く


 朝鮮の「自主的な統一」を誓い合った歴史的な南北首脳会談は、統一へ向けて大きな一歩をしるした。朝鮮統一の今後に曲折はあるとしても、わが国にはいままでにもまして、日朝国交回復実現を急ぎ、自主・平和でアジアと共生する国の進路が求められる情勢となった。前田康博・北九州大学教授に、南北首脳会談の意義や日本の進路について聞いた。


 今回の金正日・朝鮮労働党総書記と金大中・韓国大統領による南北首脳会談は、偶然開かれたものではない。南北間の忍耐強い努力の結果であり、長い交渉の成果だ。これは、外交における対話というものがいかに重要かということを示した劇的な実例と言えるだろう。
 「二十世紀に起きたことは二十世紀中に解決しよう」といわれる。この意味でも、二十世紀最後の年に実現した、朝鮮分断に終止符を打つための重要な会談だった。さまざまな問題が早期に解決できるかどうかは予測できないが、その始まりになったと言えるだろう。
 わが国にとっては、単に「よかった」という同情ではいけない。朝鮮民族の分断は日本による植民地支配の結果であり、わが国政府と国民は朝鮮民族の再統一に総力挙げて協力しなければならない。他人ごととしてでなく、心からの共感が求められている。
 南北会談は一九四五年の分断以来とされる。しかし実際は、一九一〇年の日本による併合以来、民族の自主・独立は願いだった。
 その意味で、日本によって奪われた民族の自主・自立という悲願が、再確認されたわけだ。ここに、単なる分断の解消にとどまらない重要な意味がある。

日本政府は戦後、統一を阻害

 他方、日本は四五年の敗戦後、日米安保条約のもと、一貫して米国への従属と植民地国家に甘んじてきた。
 今回の南北首脳会談は日本の将来が、これまでの軍事大国化路線から平和国家に転換できるかどうかという問題にも関係してくる。
 わが国は北朝鮮を仮想敵国とし、世界第二の軍事費大国になってきた。北朝鮮が韓国と和解すると、この日本の虚構が崩れ、安保の根拠が消える。
 だから、歴代保守政権は朝鮮の統一を妨害し、分裂を固定化する政策を露骨に進めてきた。マスコミは北朝鮮が今にも攻撃してくるかのように報じているが、なぜ攻撃される可能性があるのかについては論じたことはない。それは、在日米軍とその基地の存在以外にない。
 もし北朝鮮の「ミサイル開発」を懸念しているなら、国交交渉に誠実に応じ、在日米軍の問題も解消すべきだ。
 「北の脅威」は、わが国が対米従属下で軍事大国化を進めるためのキーワードで、国民はこの背景に日米安保条約があることに気づくべきだろう。新ガイドラインや周辺事態法制定は、南北首脳会談に表れたような緊張緩和のすう勢に逆行するものだ。

誠実に日朝国交回復を

 従来の日朝国交交渉では、日本側は交渉の入口と出口を意図的に間違えている。
 入口とは、植民地支配に対する謝罪と清算であるべきだ。そして外交関係樹立後、個々の交渉の中で経済問題や日本人妻の帰国問題、日本人「行方不明」問題などを出せばよい。交渉の入口でこうした問題をもち出すのは、交渉を故意に壊そうとする拙劣(せつれつ)な外交だ。過去の清算に徹すれば誠意は通ずるはずだ。
 なぜ日朝間に国交がないかの理由は、米国が朝鮮を認めていないというただ一点だ。もし今後、米朝交渉が進み、国交を樹立することになれば、わが国は孤立してしまう。いまは、みずからはしごをはずすことを行っており、このままでは朝鮮半島だけでなく、東アジア全体の新秩序形成という枠組みからはずされることになる。東アジア情勢の動きの中で日本だけがまったくの傍観者になるのかどうか、これが問われている。「日朝国交回復は北朝鮮側にだけメリットがある」というのは間違いだ。日本の国民にも平和の配当がある。全力あげて外交努力を行うよう政府に要求しなければならない。

わが国が真に独立する好機に

 だから、南北首脳会談の結果を日本の進路という点から評価すれば、まさにわが国が「分岐点」にあることを示している。
 今後の南北会談で、在韓米軍の撤退問題が話し合われるのは当然だろう。韓国としても、本心では米軍の存在は好ましくないと思っているはずだ。
 その在韓米軍と在日米軍は双子の関係にある。日本を監視しつつ、世界に展開するという意味がある。だから、この南北首脳会談の結果を、在日米軍を撤退させ、日本を真の独立国にするきっかけにしなければならない。当然、米国との関係を見直すべきで、このチャンスを逃せば、わが国には自主的に外交を転換させる力量がないということになる。
 ところが、日本の政治家は「神の国」発言に示されるように、まったく「井戸の中のかわず」のような状態だ。森首相が金大統領に「国交回復の意思があることを北朝鮮に伝えてほしい」と依頼する他力本願のありさまだ。
 南北首脳会談実現という東アジアの新情勢は、二十一世紀に向けた日本に国家としての新たな生き方を問いかけている。わが国は一日も早く日朝国交正常化を実現すべきだ。
 日本国民は、独立・自主の平和国家をめざす政治行動を起こすことが求められている。


まえだ・やすひろ
 大阪生まれ。同志社大学卒。毎日新聞ソウル支局長・常駐特派員、外信部記者、編集委員を経て、北九州大学教授。現在、同外国語学部長。専門は国際関係(朝鮮・韓国の政治外交)


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