20000415


日中共同声明の原点尊重を

台湾問題は中国の内政問題

元中国大使 中江 要介氏に聞く


 台湾「総統」選挙を機に、米国をはじめ日本国内でも「民主化」というキャンペーンがはられ、「台湾」の国際的地位を認知するかのごとき策動が目立っている。自民、民主党などの「総統」就任式参加計画などは、中華人民共和国を唯一の正統政府と認めた七二年の日中共同声明に反し、「二つの中国」を認めることにつながる動きである。さらに、台湾問題は米国の長年にわたる対中国干渉政策が背景にあることを、忘れてはならない。台湾問題や日本の外交政策について、中江要介・元中国大使に聞いた。


 台湾問題について考える場合、まず第一にはっきりさせておかなければならないのは、台湾の問題は中国の内政問題だということだ。それは、中国の立場に立っても、いわゆる「台湾」の立場に立っても同じである。それは、その中国が「一つ」か「二つ」かなどというレベルの問題ではなく、両岸に中国人が住んでいる「中国の問題」なのであり、それを中国以外の国があれこれ言うのは、中国の内政に対する干渉ということになる。
 第二に、なぜ台湾問題というものがあるのかということだが、これは一にも二にも、米国の責任だ。四九年、中国が革命を成し遂げて中華人民共和国が誕生したが、米国は台湾にある「中華民国」を正統と認め、関係を維持した。日本もそれに追随した。
 なぜ米国が共産主義の中国に対抗して台湾を切り離したかだが、それは米ソ冷戦に備え、台湾を西側の反共防衛の第一線にしようとしたことは間違いなく、それが、そのまま現在まで残されているということである。
 台湾は民主化されたと宣伝されているが、その台湾を誰が守るのかというと、相変わらず米国だ。それは、前回の「総統」選挙の際に中国がミサイル実験を行ったといって、米軍が出動したということに象徴的に示されている。
 このように、両岸関係を難しくしているのは、米国が中国に背いて台湾を防衛するという政策をとっている結果だ。つまり、台湾問題は中国と「台湾」の争いではなくて、中国と米国の争いというのが問題の本質だ。
 以上、中国人の内部問題だということからしても、米国の責任ということからしても、本質的には日本には関係のない問題だ。中国人が自ら解決するか、中国が米国と話し合って解決すればよく、日本があれこれいう問題ではない。これが、両岸関係の基本だ。
 民主党が台湾を訪問するとか、李登輝前「総統」を招待するという動きがある。問題は、行くことや招待すること自身ではなく、こうした人びとが、先に述べた問題の原点を踏まえているかどうかということだ。原点を踏まえずに、「台湾」は独立国だなどという考えをもっているとすれば、台湾に行っても行かなくても不見識である。

内政干渉は対米追随が背景

 日中共同声明は、日本政府は「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府」であることを「承認」し、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中国政府の立場を「十分理解し尊重する」とうたっている。
 これに沿った立場をとるのは当然だが、その意味するところをあまり言わずに、ただ「共同声明や条約は守る」とだけ言っている人が多い。「守る、守る」と言いながら、何が書いてあり、何を守るのかを、まったく理解していないのではないかと疑いたくなるようなことが多い。
 日中共同声明の内容が何かということを、しっかり認識しておく必要がある。中華人民共和国政府が中国における「唯一の合法政府」であるということは、もう一つの合法政府は存在しないということにほかならない。だから、台湾の問題は中国の内政問題であるということを、よく理解し尊重しなければならない。
 だが、なぜかもう一つあると思っている人びとがいる。共同声明に沿った立場をとるということは簡単な問題で、少しも難しい問題ではない。にもかかわらず、政治の世界でもマスメディアの論調でも、はっきりされていないようだ。
 いずれにせよ、日中両国がアジアの中でどのような関係を築いていくのか、米国のアジア戦略に対してどう対応するのか、こういう問題にこそ、日中は真剣に対応しなければならないはずだ。目前の問題にばかりとらわれるべきではない。両岸関係については、もっと心を広くし、中国自身の努力や米中関係の行方を冷静に見守るべきではないのか。
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 先ほどもふれたが、台湾を中国から引き裂いて強引に守り抜こうとしているのが、米国だ。
 米国は台湾をまだまだ自分の陣営にとっておきたいようだ。また、両岸に危険があるということにしないと、極東に十万の米軍を置いておくことの言い訳が立たなくなってしまうということがあるのかもしれない。しかし、日中共同声明と平和友好条約さえわきまえていれば、日本の立場ははっきりしている。
 それなのに、日本国内に必要以上に台湾に対する妙な「思い入れ」があるのは、不思議なことだ。それは、冷戦下米国の極東戦略にずっと追随してきたからで、それが残っているのではないか。しかし、冷戦は終わったのだから、いつまでも米国のいうことばかり聞いている必要はない。
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 日本の政治は、相変わらず派閥争いや年功序列でしか動いていないのではないかと、国民の信頼を失いつつある。このままでは、米国や中国、南北朝鮮などとアジアの安全保障の問題などをしっかり話せるかどうか、心もとない。
 わが国の外交や東アジアの安全保障は、もっと大きな枠組みで考える必要があろう。アジア諸国や南北朝鮮、中国、ロシアなども含めた多角的、集団的な枠組みの中でこそ、長期的な安全保障が可能だ。長期的展望をもった外交路線が強く求められているが、そのことを十分議論しなくてはならない。


なかえ ようすけ
 1922年生まれ。外務省入省後、71〜78年アジア局参事官、局次長、局長として日中平和友好条約などを手がける。ユーゴ、エジプト、中国大使を歴任し、87年退官。前三菱重工顧問。バレエの台本作家でもある。


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