20000315


団体規制法

有事体制づくりにストップを

大衆運動も弾圧するもの

弁護士 海渡 雄一氏に聞く


 公安調査庁は二月四日、昨年制定された団体規制法(オウム新法)の観察処分が適用されたオウム真理教(アレフと改称)に対し、全国いっせいに立ち入り検査を行った。その後も、構成員の名簿提出や活動報告を行わせるなど、弾圧を強化している。同法は組織犯罪対策法(盗聴法)や破壊活動防止法と同様、大衆運動や政治活動を弾圧するもので許されない。また、憲法で認められた結社の自由に反するものである。これら治安立法は、周辺事態法のもとでの有事体制づくりと結びついており、廃止の国民世論を高めなければならない。治安立法に反対して活動している弁護士・海渡雄一氏に聞いた。


 もともとオウム真理教に対して破防法を適用しようという動きがあったが、これは九七年に「暴力主義的破壊活動を行う明らかな恐れがあるとは認められない」という判断が下され、請求が棄却されている。請求棄却後、団体規制法制定の根拠として、オウムが次々に違法行為を行ったからではなく、布教活動をしていることに対して「住民の不安が高まった」と、説明されてきた。

団体規制法は破防法と同じ

 そこで問われるのは、本当にこの団体が将来、暴力主義的活動をやるかどうかが証拠によって認められるかということだが、その証明は全くされなかった。
 将来の恐れではなく、この団体が過去において暴力主義的活動をやったかどうか、当時の幹部がいまも幹部でいるかどうかなどで、法の適用を判断するということになっている。組織や人間の考えの中身は問われない。
 公安審査委員会が破防法適用の請求を否定しているのに、政府はそれでも適用できる第二破防法ともいうべき法律をつくり、「再発防止処分」と「観察処分」を課すとしている。「観察処分」の内容は、メンバーのリストを出すなど、団体に関するさまざまな情報を出さなければならず、国家権力の前に、完全に団体の中身を明らかにしなければならない。
 さらに、「再発防止処分」の要件というのが、非常にばく然としている。脱退の妨害だとか団体の財産が増えたことでも、処分ができるようになっている。
 この処分は現実には、土地建物の取得・使用禁止、それから殺人および未遂の関与者とその時点の役員の活動禁止、現金などを受け取ることを禁止する、団体加入強要・脱退妨害の禁止など、ほとんど団体として活動できなくするというものだ。名前は違うが、破防法の解散処分と実質的には同じものといえる。

闘う労組にも適用の恐れ

 同法は「無差別大量殺人を行った団体の規制に関する法律」という標題になっているが、この法律には「オウム」とは書かれていない。「無差別大量殺人」というのも、条文には「破防法に掲げる政治目的殺人で、不特定かつ多数の者を殺害し、またはその実行に着手してこれを遂げないもの」とされている。
 法律用語としての「多数」は「一人でない」ということに過ぎないので、二人でもかまわない。また、「無差別」とは条文にはいっさい出てこず、「不特定」となっている。だから、特定されない二人以上に対しての殺人「未遂」でも適用される。その「未遂」も、裁判ではっきり殺人未遂と認定されることが条件ならば歯止めはかかるが、実際は公安調査庁がそう考えて公安審査委員会が了解すればよい。裁判で殺人未遂かどうか、または有罪が確定している必要もない。だから、犯人が特定できなくてもかまわない。
 つまり、「殺人未遂」と聞くと驚くが、実際には傷害事件でも適用されることになる。それに、最初の段階では「過去十年以内に(殺人を行った)」という規定が入っていなかった。もともとは、何十年前に犯したものでもかまわなかった。
 破防法もかなりひどい法律だが、以上みたように団体規制法は、団体が違法行為を行う明らかな恐れという適用条件が必要ない。にもかかわらず、実際に行われる処分は、団体の解散とほとんど同じだ。明らかにやり過ぎで、憲法上の表現の自由、とりわけ結社の自由と両立しない。
 政府は確かに、法案審議の中で「オウム以外には適用しない」と言っている。しかし、法律の条文からみると、いわゆる新左翼党派にも適用されかねない構造をもっている。労働組合に対しても、三池闘争のように労働組合と警察がぶつかり合う闘いであれば、適用される可能性があり、非常に危険なものだ。
 このように、オウム以外に適用することもとんでもないことだが、オウムに対してもこの法律を適用するのは間違っていると考えている。オウムが行った犯罪を是認するとか、考え方を認めるということではない。この法律が今後、悪用されないようにするために、オウムへの適用の現段階で、憲法違反だと問題にしていくことが必要だろう。

警察を監視する第三者機関を

 今回の法律では、立ち入り検査などは公安調査庁と警察が共同で行う仕組みになっている。これは周辺事態法、盗聴法、住民基本台帳法改悪などと同様、警察権力を強化していざというときに対処し、運動を弾圧しようというものだ。公安警察が公安調査庁も傘下に取り込み、至上の権力をもつための法律だといえる。
 数々の警察不祥事が暴露され、警察は日本社会でもっとも信頼度の低い公共機関になっている。「こんな警察に盗聴や団体規制の権限を与えてもよいのか」という声は、広がる条件がある。警察活動を監視する行政、司法から独立した第三者機関をつくるしかないだろう。英国には、秘密警察を監視する第三者機関があるし、オーストラリアにも警察対象のオンブズマンがある。これらを日本でも構想していく必要があるのではないか。そうすれば、警察権力の強化や有事体制づくりに一定の歯止めがかけられるのではないか。


かいど ゆういち

 1955年生まれ。79年東京大学法学部卒。81年弁護士登録。破防法・組織的犯罪対策法に反対する全国弁護士ネットワーク事務局。


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